Q
抜き型のダイの逃がしはなぜ必要か。考え方は?
A
抜き型の状態を【図1】に示します。この図で説明します。
抜きダイはパンチ形状に合わせた穴が加工されますが、加工力を受けるので破損しない強さが必要です。その部分が図にSで示したところです。この部分は刃先が痛むと研削(再研削)します。そのためにある程度S部が薄くなっても耐えられるように設計します。設計の考え方で、再研削部分を長くしておけば金型の総寿命が延びる、と考えてS部を長くする人がいます。これはダメでよい結果は得られません。
抜かれてダイの中に入った製品は、ダイの側面と接しながら押し下げられて行きます。このダイ部分をストレートランドと呼んでいます。ストレートランドが長いと、製品は押し下げられる過程でわん曲が増加します。ときには製品とストレートランド部が焼き付きます。金型寿命を長くしたいと考えて設計すると、このようになりうまくいきません。ストレートランドにある製品は、せいぜい3〜4枚程度とします。この程度とした方が金型寿命もよいようです。
ストレートランドの下に逃がしを作る。これは自然な考えから出る形です。ストレートランドはあまり長くしてはダメといっています。それを欲張って再研削代を多く取ると、逃がしの意味が無くなっての失敗です。
【図1】に示したダイの形は最近は少なく穴抜きに見られる程度で、外形抜き等ではほとんど見られません。【図2】の(a)または(b)の形が多いです。ワイヤカット放電加工機の普及で、テーパ加工が容易にできるようになり普及しました。(a)は刃先から6′~20′程度で加工されます。再研削の都度、ダイサイズは大きくなるのでそれを見越して作ります。(b)はダイサイズの変化を嫌ってストレートランドを残した形状です。ストレートランド以下のテーパは30′~2°位です。(c)は(b)のストレートランドと製品の接触抵抗を嫌って、ランド部にわずかに(6′~12′程度)テーパを取り、以下を大きな角度(1°~2°)で逃がしたものです。精度を必要とする抜きに採用されます。
抜きダイの逃がしはダイの強度を保ちつつ、抜かれた製品が通過しやすい状態を作り、かつ再研削に必要な部分も確保することを求めています。同時に作りやすいことも求められます。ワイヤカット放電加工機が出現するまでは、テーパ加工は大変難しい加工でした。そのため、【図1】のような段のある逃がしが多く使われていたのです。そしてさらに、かす詰まりやかす上がりに対する配慮も求められるようになっています。普段あまり気にしないこのような部分でも、よい金型を求めて工夫されています。