プレス加工では、プレス加工スピード(spm)を上げることで生産性が高まると考える人が非常に多いです。机上の計算では不具合が考慮されないため、数値だけが一人歩きすることとなります。
実際にはいろいろな問題があります。例えば、コネクターの加工では、高速化したことでスプリングやストリッパボルトの破損が多くなる。送られる材料のバタツキが大きくなり金型内で送りミスが多発するようになり金型破損が多くなる。など今までになかったトラブルに悩まされることがあります。これらはspmに金型が適合していないためのものなので、改善することで解決可能な内容ではあります。
生産数を無視してspmを上げても生産が早く終わってしまい、次の仕事の待ち時間や段取り替えが多くなり、設備稼働率が下がってしまい、結果、生産性は向上していないというような問題も見受けます。
また、送り装置やアンコイラー等の周辺設備の価格も上がり、プレス機械を含めたシステムの設備費が高くなり、設備償却費の関係から時間単価が上がり、spmアップによるコスト低減効果が相殺され、期待するほどのコスト低減とならないこともあります。
プレス加工には設備、金型寿命、生産数とのバランスのよい状態があります。このような状態をプレス加工の経済速度と呼びます。しかし、この状態にこだわりすぎると進歩が止まりますが、無視した大きな変化を急ぐことは生産の弊害となることが多くあることも理解しておくべきです。それぞれの加工の内容から経済速度を見つけ、効率よい仕事を目指すことが大切に思います。
例としたコネクターの加工では600〜800spmと言われています。spm値の幅は製品の形状や取り数などで変化します。一律のものではありません。
絞り加工では、プレス機械のspmより製品の材料から絞り速度が制約され、むやみにspmを上げられません。そうすると順送加工をしているものでは取り数を増やして対応しようと考えます。3列取り程度が適当なものを、5列、7列とすることです。取り数とトラブルは比例ではなく、乗数の関係にあるようです。取り数を増やしてもトラブル停止が多発すれば、多列にした効果は薄れます。納期に追われて、多列にした何列かを捨てるような生産になれば目も当てられません。ほどほどに。