加工硬化とは「一度塑性変形させて、その後同じ向きの力を加えると、降伏点が上昇してつぎの塑性変形を起こすのに必要な力(抵抗=変形抵抗)が増すこと」といわれています。材料を加工していくと硬くなり、うまく加工できなくなります。これは経験的によく知られていることです。
加工硬化を定量的に現すものを「n値」と呼びます。「n値」は応力とひずみの関係から求めるものですが、ここでは説明を省略します。
「n値」と加工の関係について見てみます。「n値」が大きな材料では、加工硬化が進むにつれて硬くなり、伸び量も減少して再度の加工には好ましくない状態となります。絞り加工で再絞り加工を必要とするものでは好ましくない性質となります。
しかし、「n値」が大きな材料は加工硬化しやすく、変形が一様化しやすい性質ともいえます。これは局部的な変形を押さえ、一様化させようとすることを意味しています。成形加工では、局部的に伸びて破断することが不具合となります。加工硬化の性質としては、局部的な伸びを押さえようとする性質であります。
この性質とプレス加工の関係で見ると、伸び要素で形状を作る張り出し成形や伸びフランジ成形では、加工硬化が増すにつれて成形限界が向上することになります。「n値」の異なる材料で半球絞りを行ったとき、中心部付近の板厚は、n値の大きい(加工硬化しやすい)材料の方が板厚減少が少なくなります。
材料でみるとステンレス鋼、アルミニウム、銅、黄銅等は、材料の質別によってn値の変化が大きく、使用に注意が必要です。軟鋼板では質別による「n値」の変化は少ないです。
主な材料の「n値」を【表1】に示します。
【表1】材料のn値
|
|
一般に加工硬化は好ましくない性質と考えられていますが、加工の内容によっては有利に働くこともあるのです。加工の内容と材料の性質を調べうまく使うと、少ない苦労でよい結果が得られるかも知れません。