軟鋼板(SPC材)を想定して話を進めます。一般的に適正クリアランスを採用して抜き加工すると、切り口面には板厚の30%程度のせん断面が現れます。適正クリアランスは板厚の6%〜8%です(【図1】)。適正クリアランスは工具の持ちが最もよくなる条件です。製品によっては、切り口面のせん断面長さを長くしたい、抜きだれを小さくしたい製品もあります。このようなときには、精密抜き用のクリアランスというものを採用します。クリアランスは3%〜5%と小さくなります。
以上の条件は、直線部やゆるいカーブ形状の抜きのときです。直線と直線が交わるような角では、適正クリアランスを使って抜いても、せん断面長さは板厚全域に達します(【図2】)。このような条件ではパンチの角の摩耗が早くなり問題です。角部に板厚の50%以上の丸みをつければ、直線部とほぼ同じ抜け状態となります。角部に丸みがつけられないときには、角部のクリアランスを大きくします。その増加量は直線部に用いたクリアランスの50%程度です(【図3】)。
【図4】に示すような凹凸形状では、均一なクリアランスを採用すると、凸部の抜きだれは大きくなり、凹部の抜きだれは小さくなります。均一な抜きだれとしたいときには、凸部のクリアランスは小さく、凹部のクリアランスは大きくしてバランスを取ります。
抜きだれの変化は、抜き加工時に発生する曲げモーメントや側方力も変化していることを意味しています。細い形状の抜きではねじれや反りが気になります。形状に合わせてクリアランスを変化させることで、ある程度の改善が可能となります。材料押さえと組み合わせると、より効果がでます。