【図1】は上曲げと下曲げのある製品を加工する金型です。この構造ではパンチとダイがスプリングで保持されている可動式のパンチとダイを採用しています。このようなパンチやダイを、フローティングパンチ、フローティングダイと呼びます。
なぜこのような面倒な構造が必要になるかを説明します。【図1】の構造で下曲げを考えます。可動パンチ=パッドとなります。可動パンチ(パッド)は材料を押さえ、その後パッド後ろのスプリングがたわんで下曲げパンチが下曲げを開始します。可動パンチ(パッド)と下曲げパンチはこの関係にないと曲げができません。
上曲げを考えると、可動パンチが上曲げのパンチです。可動ダイ=上曲げのパッドとなります。可動パンチが材料を押さえ、上曲げのパッド(可動ダイ)を押し下げることで上曲げが始まります。
可動パンチ、可動ダイはパッドとの複合部品であることが分かります。パッドは押さえながら動く部品ですから、スプリングで保持され浮いた状態となります。この部品をパンチ、ダイと共用するため「フローティング○○」と呼ばれるようになりました。このようにフローティング部品は、複合加工や順送加工のときに出てくることの多い金型構造です。
【図1】で、スプリングAとスプリングBの強さ関係を考えます。
- (1)
- A=Bで曲げ力より大きいとき、上曲げと下曲げは同時に進行します。可動パンチが材料を押さえた後、A、Bのスプリングは等しくたわみますから上下曲げが等しく進行します。しかし、このような状態を作るのは大変難しいことから、通常ではこのような設計はしません。
- (2)
- A>Bの状態で、Aのスプリング強さが曲げ力+Bより大きいとき、可動パンチが材料を押さえると、可動ダイ下のスプリングBがたわみ始め上曲げが進行します。可動ダイが底突き状態になると上曲げが完了します。この状態からスプリングAがたわみ始め下曲げが進行し【図2】の状態で上下の曲げが完了します。
- (3)
- A<Bの状態で、Bのスプリング強さが曲げ力+Aより大きいとき、下曲げが先行して可動パンチが底突きするとスプリングBがたわみ始め上曲げが始まります。(2)と逆の関係で曲げが進行して、【図2】の状態で完了します。