プラスチック射出成形品は、溶融樹脂を高圧で金型内に充填し、冷却固化させて成形品を取り出しますが、これらの一連のプロセスによって成形品には残留応力が発生します。
通常の射出成形では溶けた樹脂を金型のキャビティ内へ充填させる際には20~50MPa(約200~500kgf/cm2)もの高い圧力が作用します。人指し指の爪の上に体重50kgfの人間が4~10人も一瞬うちに乗りかかるほどの力が作用しています。
残留応力とは、圧縮応力や引張応力が部材の中に残ってしまっている状態を言います。残留応力が残っていると、部品に熱が加わったり、時間が経過すると応力が徐々に開放されて部材が変形したり、破損する事故につながる可能性があります。
残留応力とはプラスチック成形品の中に残ってしまっている内部ひずみのことで、この内部ひずみは成形品が過熱されたりすると開放されてそりや変形、亀裂が生じることもあります。
プラスチック射出成形ではその加工プロセスから残留応力が成形品に発生することは明らかで、どのような原因で発生するのかは下記のような諸説が考えられています。
- 成形品の各部分には均等な圧力がかかることは難しく、ゲート近傍や薄肉部分では高い圧力が作用し、圧力の不均等さによって応力が発生する。
- 成形品の肉厚が不均等な場合、成形収縮率や圧力伝播が不均等になり、冷却の時間にも差が発生する。厚肉部分は、先に冷却された薄肉部分に引っ張られて残留応力を発生させるメカニズムが想定される。
- 樹脂の金型内流動時には配向(オリエンテーション)が起き、成形品の内部の収縮状態に不均等が発生し、残留応力を引き起こす。
- 成形品を金型から離型させるときに、十分な突き出し力が均等に作用しないと、成形品に残留応力をもたらす。
このように、残留応力の発生要因は、金型設計の検討事項の精緻さによって左右されます。残留応力を軽減させ、成形品の長期間の使用で支障をなくすためには、金型設計時点で残留応力の発生可能性を検討し、その軽減対策を講ずる必要があります。成形直後では残留応力の発生は見出ししくいですが、時間の経過によってそりや変形、クラックが発生する場合があります。
また、残留応力を強制的に開放させて変形をさせてしまう手段としては焼きなまし(アニーリング)処理があります。焼きなましは、成形品を加熱炉の中に入れて時間を置いて、徐冷します。成形品の使用前に変形をさせてしまい、使用中の経時変化を避ける意味合いがあります。
成形品の用途として、力が作用する機構部品や人体が接触する部品などでは、衝撃による破損で部品が鋭利に割れて安全機能が発揮できなくなったり、人体を傷つけることがないように残留応力が残りにくい成形品設計、アニール処理などを適切に施す必要があります。