[2023/3/31公開]
こんな人におすすめ
・成形工場の改善を考えている人
・射出成形工場で導入できる改善を知りたい人
・どんな改善から始めれば良いか知りたい人
射出成形工場では、射出成形機を使って、ものづくりをしている。
お客さまから注文をいただいた成形品を、契約した品質で、必要個数、指定された納期に間に合うように成形することで、事業が成立する。
客先への売値は予め決まっているので、いかに製造コストを抑えるかで、利益が変わってくる。
成形品にかかる製造コストの例
・原料費
・機械の減価償却費
・成形加工費(人件費含む)
・二次加工費
・光熱費
・保管費
・梱包費
・輸送費
・地代家賃
・通信費
上記のとおり、ものづくりには、さまざまな費用がかかる。
本日は、製造コストを抑え、利益を最大にする改善ノウハウを紹介していく。
改善の基本
改善は、段取りが重要である。
手あたり次第に改善してもキリがない。
ものづくり現場において、課題や非効率なことは山積みであるため、あれもこれも手をつけてしまうと、全てが中途半端になってしまう。
また、関係者全員にメリットがある改善でなければならない。
誰かの作業や、持ち場に不利益が出てしまうのは、全体で見れば、改善したことにはならない。
関係者皆の意見を元に、改善計画を立てていくことが重要である。
改善の順番
できることから実施する。
現状抱えている課題、問題点をリストアップしていく。
問題の大小、改善難易度は問わず、皆で現状を洗い出し、そのリストから優先順位をつけていく。
ポイントは、導入しやすく、改善効果の高いものを優先することである。
大掛かりな装置や機械の導入で工程が自働化できるとしても、その前にできる改善から実施すべきである。
万策尽きた後で、最後に装置や機械の導入が基本的な考え方である。
改善の優先順位の付け方
改善活動の優先順位は、ECRSの4原則を意識するとよい。
E(Eliminate):排除することはないか?
C(Combine):結合できないか?
R(Rearrenge):交換できないか?
S(Simplify):簡素化できないか?
基本的に、E➡C➡R➡Sの順番で、改善効果の高い順になる。
リストアップした改善点から、ECRSに則って改善計画を立てていく。
知恵やアイデアを出し合うことであっさりと解決できる問題も多い。
また、ECRSで工程を細分化することで、無駄の見える化にも繋がる。
課題、問題を皆にシェアすることで、皆の意識が変わっていく。
射出成形工場の改善実例
射出成形工場で導入しやすい改善事例を紹介していく。
(1) ベルトコンベアの非常停止回路の改造
ランナー搬送用のベルトコンベアは、通常は連続運転していた。そこへ取り出し機の金属部品が脱落した。取り出し機は取り出しエラーで停止したが、ベルトコンベアはそのまま稼働し、脱落した取り出し機の金属部品は粉砕機へ投入されてしまった。
【改善事例】
このトラブルを再発防止するために、トラブル発生時にベルトコンベアが停止し、脱落した金属部品をベルトコンベア上で止める回路を組んでいく。
取り出し機のアラーム出力から信号をリレーで受け、コンベアの電源を切る回路を実装した。
【効果の確認】
粉砕機に金属片が混入してしまうトラブルの試算は以下のとおりである。
廃棄原料10kg×250円/kg
清掃作業0.5時間 作業費1,000円/時間
1回粉砕機に混入してしまうと、単純計算で、3,000円のロスになる。
その他に、粉砕機の粉砕刃が欠けてしまうと、粉砕効率は下がり、欠けた箇所がさらに欠けて金属片の発生源になってしまうので、ひどい時は粉砕刃の交換に至ることもある。
今後、取り出し機の金属部品の脱落トラブルが起こっても、損失が未然に防げるようになった。
(2) 型締ユニット下に水漏れセンサを取付け
金型の水口から水が漏れ、製品部に付着して水シミ不良が発生した。
定期検査(1回/4時間)にて発覚したが、4時間分の成形品がNGになってしまった。
【改善事例】
型締めユニットの底部に、水漏れ検知のセンサを配置することで、水漏れ発覚と同時にアラーム出力する。
【効果の確認】
水漏れが成形品に付着する不良が発覚するのは、4時間に1回の定期サンプル検査なので、4時間分の成形品が不良対象である。
4時間分の成形品廃棄代金は、100t成形機の加工料を時間2,000円とすると8,000円。
(成形品は粉砕して再利用するものとする。)
水漏れと同時に発覚できるようになるので、最大で8,000円の加工料のロスを未然に防止できることになる。
(3) 属人化のカンコツ(勘と経験)をマニュアル整備
ものづくりの工程によっては、Aさんにしかできない作業や、Bさんだけしかやったことがない作業のように、属人化している作業が多く存在する。
誰がやっても同じ成果を得られるような仕組みづくりが重要であり、早急に対処しなくてはいけない。
【改善事例】
作業手順や、作業ポイントをマニュアル化し、誰がやっても同じ成果を得られる仕組み作りをする。
特に、複雑な工程は細かく分け、写真やイラスト、動画を交えて、わかりやすい資料にすることで理解しやすくなる。
作業の中で、特に危険な工程や怪我しそうな作業など、まずやってはいけないこととして十分に教育することが重要である。
【効果の確認】
マニュアル整備の効果を数値化するには、機会損失を計算すると良い。
マニュアルを揃えることで、全ての作業を皆ができるようになる。
今までは、Aさんが不在時は機械停止していたところ、マニュアルを揃えることで稼働できるようになる。
100t成形機の加工料2,000円を1勤務(8時間)分とすると、16,000円の売り上げ機会を逃さなかったことになる。
(4) 作業環境の整備
エリア分けは、安全な環境作りにおいて重要な管理項目である。
射出成形工場は、さまざまな機械・装置が稼働しているので、目で見てエリアが識別されていて、かつ産業用ロボットやフォークリフトの稼働範囲は人払いされていなければならない。
【改善事例】
床にテープでエリア指定することで、一目で認識できるようにする。
・赤テープ:物置き禁止
消火栓や、防火シャッター前は赤テープで囲い、不要な物置きを禁止する。
・黄色テープ:作業注意
作業の邪魔になるエリアや安全を損ねるエリアには、黄色のテープをして警戒をする。
・床の色
フォークリフト走行する箇所と安全通路が一目でわかるように識別をする。
安全通路はクリーム色にし、フォークリフトは侵入させない。
【効果の確認】
一目でわかるように色分けするだけでなく、周知することが重要である。
関係者にヒアリングして、全員が理解していること確認し、記録を残すと共に定期的に継続して指導していくことが必要である。
(5) 2S(整理・整頓)の徹底
射出成形工場において、不良の削減にもっとも効果を発揮するのは2Sである。
不良は汚い環境から発生するものである。
整理・整頓を基本に、いつも整った環境でものづくりをすることで、少しの異変や不具合にも敏感に気付けるものである。
【改善事例】
まずは整理。さまざまな人が連携して作業する射出成形工場において、不用品がどんどん溜まっていくものである。定期的にいらないものは整理すべきである。
特に、試作原料は、どんどん溜まっていく。
1袋(25kg)単位で入荷し、試作ごとに余るので、責任者、保管場所、保管期間をしっかりと決めておくことがポイントである。
長期放置されないためにも、試作の責任者と原料倉庫の管理者で事前に話し合いをしておくことがポイントである。
【効果の確認】
工場2Sが適切に行われているかの効果確認は、月度のパトロールが有効である。
各部署から選出し、お互いが監視しあうことで、継続的に2Sを徹底できる。
甘い判断をせず、ルールに則って2Sを運用できているか、お互いが厳しく指摘すべきである。
改善のスパイラル
改善活動は、1つ1つ進めることで、自分たちの仕事がやりやすくなっていくものである。
初めは課題が山積みの現場でも、少しずつ改善することで、余裕がうまれていく。
改善活動を継続することで、その効果はどんどん加速していき、利益を残す仕組みが構築されていく。
通常業務が忙しい時こそ、改善活動を進めるべきである。