[2023/3/31公開]
こんな人におすすめ
・射出成形の品質管理ポイントを知りたい
・品質のバラツキを抑えたい
・成形不良を未然に防ぐ対策を知りたい
製造業は、バラツキ管理が重要と言われている。
生産した成形品の100%が良品になることはありません。品質基準を外れてしまう成形品は一定確率で発生する。
不良率をいかに低減できるかが製造業のテーマである。
射出成形加工におけるバラツキは、さまざまである。
バラツキの原因
・原料の物性
・原料に配合されるフィラー、着色材
・粉砕材の配合比
・射出成形機、取出し機、周辺機器の部品の消耗
・外観検査員の習熟度
・ゲートカットやバリ取り作業の難易度
・気温、湿度、作業環境 など
成形不良が発生する時は、これらのバラツキ原因がいくつも重なって発生することが多い。
本日は、射出成形における品質管理のポイントを解説する。
品質管理のポイント
いかにバラツキを抑え、要求される規格内に収めるかが品質管理のポイントである。
成形品の不良率に大きく関わる商品開発から解説する。
射出成形加工における商品開発は、製品デザイン、金型設計、原料、成形条件の順で進めるのが一般的である。
各工程で好き勝手に進めると、量産時に大変な不良トラブルになるため、全体最適を考えることが品質を安定させるポイントである。
各工程の役割を以下に紹介していく。
・製品デザイン:製品デザインが1番成形性や不良率に影響を及ぼす。肉厚やボスリブ形状など、必要以上の強度や機能をデザインすると、量産時に不良が多く苦労することになる。
・金型設計:製品デザインを元に、どんな金型で成形品の形状を作るか決める。
ゲート位置や、抜き勾配、冷却水管の位置、ガスベント、金型の分割位置など、量産に影響する項目が多いので、関係各所の有識者から意見を汲み取って進めるべきである。
・原料:どの原料のどのグレードを使用するかでバラツキが大きく異なるので、原料の選定は、材料メーカーとの打ち合わせ、複数の材料サンプルを入手して比較するなどが望ましい。
・成形条件:成形条件はシンプルに1速1圧が望ましい。しかし、複雑な製品デザイン、金型構造では、多段制御で充填速度を変えて成形することもある。ただし、成形条件で調整ができる管理幅は限定的であるため、まずは前工程の、製品デザイン、金型設計、原料選定の時点で不具合を未然に防ぐ検討が重要である。
試作・開発時に考慮すべきこと
試作開発時は、バラツキを許容できるように、成形条件の幅を意識する。
客先要求の品質基準内に成形品を収めることが、製造業の腕の見せ所である。
どの成形品にも品質基準が設定されている。
重量や、寸法、外観などの品質基準に関して、センターに狙いを定めて成形条件を作っていく。
成形条件の主要パラメータである、射出速度、保圧、加熱筒温度、金型温度などを上下に変化させてサンプルを取り、品質基準内に収まる上限条件と下限条件を見極めていく。
その上限と下限のセンターを基準条件にするのが理想である。
成形スタート時に考慮すべきこと
立ち上げから10ショットほどは、成形品条件は安定していない。
金型温度や計量される樹脂密度は、ショット毎に変化していき、徐々に安定していく。
立ち上げのバラツキは、1時間位続くことがある。スタートしたからといって、次の作業へ取り掛かり現場を離れてしまうと、大量不良を出してしまう。
立ち上げ時は、品質が安定するまで、しっかりと腰を据えて対応することがポイントである。
量産時に考慮すべきこと
量産成形中は、変化点に注意すべきである。
射出成形加工における量産時のトラブルポイントは以下のとおりである。
(1) 原料ロットの変更による樹脂の流れの変化
原料ロットが変わると、MFR(メルトフローレート)が変わることがあり、充填の具合が変化する。ガスの発生が強くなったり、粘度が変化すると、流動末端のガス焼けやガスショートが発生する場合がある。
どのタイミングで原料ロットが変更になるか把握しておき、原料ロットが変更になった時点で、成形品の品質をチェックすることが品質管理のポイントである。
(2) 外観検査作業者の引き継ぎ
各直担当者間の引き継ぎは多くのトラブルが発生するため、しっかりと申し送りができているか管理することがポイントである。
口頭で申し送るのではなく、申し送り書を用意し記録に残すことが重要である。
(3) タイムサンプルを重点検査
直勤務毎にタイムサンプルを取得し、現在成形している成形品が品質基準に合致しているか判定することが重要である。
金型の水管の詰まりによる寸法異常や、水漏れの付着など、ある一点を境に不良になることがあるため、サンプルを定期で採取保管することで変化点がわかるメリットがある。
(4) 品質管理モニターの監視
量産中の各ショットを監視することがポイントである。
特に監視すべきは、計量時間、1サイクル時間、最小クッション値、最大ピーク圧である。
以下に、監視項目の役割を解説していく。
・計量時間は、原料切れの検知
・1サイクル時間は、性能ロスの検知
・最小クッション値は、ショートショットの検知
・最大ピーク圧は、ガス逃げ不良の検知など
人の目視による外観検査の前に、成形機の品質管理モニターで監視することで、不良を発見しやすくなる。
出荷時に考慮すべきこと
出荷前検査を採用することで、長期保管から起こる成形品の変形や変色、倉庫内の湿気による成形品の汚れなどの保管トラブルの流出を防止できる。
特に、梅雨時期の湿気と真夏の高温は成形品に悪影響を与えるため、その時期をまたぐ保管をした成形品は重点的に出荷前検査すべきである。
停止期間中にできる品質管理強化の施策
稼働している時に品質管理するだけでなく、停止期間中にできる品質管理を行う。
(1) 手順・帳票類の改訂
成形・検査作業のうち、やりにくかった点やミスが起こりやすいポイントなどを抽出して、手順書や帳票類に盛り込むことが重要である。
1人の作業者が経験したトラブルを、皆にシェアすることで、次に起こった時に最適な対応が取れるようになる。
(2) 不良データの分析と改善
試作・開発、量産を経て得た成形実績から、不良データを1つずつ分析して、次回量産までに改善をすべきである。
成形機、金型、原料などさまざまなファクターの中で成形不良の原因は何なのかを考えていく。不良の発生件数の多い事象から対策を立て改善することが有効である。
積算ショットが多くなり、金型のガス抜けが悪く、ウェルドやガス焼けが発生していたなら、オーバーホールが有効であり、ガスベントが潰れてきているようなら、ガスベントの彫り直しを検討したりする。
(3) 水平展開
成形品を問わず発生するような不良事象は、他の成形品にも水平展開することが重要である。
ある事例では、2次加工で塗装工程のある成形品において、今まで外観検査に綿の手袋を使用していたが、長時間作業を使用している作業者の触れた成形品に油分が付着しており、塗装不良が大量発生した。対策として、2次加工に塗装がある成形品の外観検査は、ニトリルゴム手袋を使用する変更をした。この不良事象は、2次加工に塗装工程のある全ての成形品が対象であるため、しっかりと水平展開をしておく必要がある。
まとめ
射出成形工場における品質管理のポイントを解説した。
バラツキを抑えることにより、不良率は改善されていく。
成形品の要求品質に合わせて、品質管理をしていくべきである。