[2023/3/17公開]
ものづくり業界は今、以下のようにとても厳しい状況に立たされている。
・原油高・円安による原料費の大幅値上げ
・人件費の高騰、人手不足
・もの余り
効率良く生産し、最大の利益を上げられる最適なシステムづくりが求められている。
今までは、製造ラインに人が張り付き、1点1点を目視で検査していた。人件費や管理費の高騰を受け、従来と同じやり方では、利益が出しにくくなってきている。作業者の効率を上げるには限界があるため、作業工程を見直し、部分的にIT技術やロボットを導入していくことがポイントになる。
しかし、自働化・省人化が必要なことは分かっているが、導入には以下のような多くの課題がある。
・何から始めて良いかわからない
・高額なシステムを導入できない
・やることが増えてしまうのではないか
・忙しくて、手が回らない
本日は、射出成形業界のメインテーマの1つである自働化・省人化について、解説していく。
自働化・省人化とは?
自働化
自働化とは、今まで人が作業していたことを、IT技術やロボットなどに置き換え、機械や品質の異常を見つけ設備を止めるなど、人の手がかからないシステムに作り変えることである。自働化は、中長期計画をしっかり作り、小さく始めることがポイントである。悪い例は、無計画に各部署でそれぞれに自働化を進めることである。部署を統合しようとなった際に、異なるシステムで構築されていては、また一から作り直しになってしまう。
省人化
省人化とは、作業の見直しや、無駄の削減、設備を導入して作業にかかる人手を減らすことである。作業効率を上げて、きっちり1人分の作業を削減することが、省人化のポイントである。0.9人分の作業を削減したとしても、作業者1人を抜くわけにはいかない。こういった改善は、省力化と呼ばれる。省人化が望ましいが、全体の作業負荷は下げられるので、省力化も積極的に進めていくべきである。
自働化・省人化を進める前に確認すること
(1) 現状把握から、できる改善を始める
いきなり大掛かりに自働化をしてもうまくいかない。IT技術やロボット導入に向けた準備が必要である。
・現状を良く分析する
・工程ごとに作業を細分化していき、無駄な作業は削減する
・属人化している作業は、誰でもできるように標準化する
・複雑な作業は、治具の導入や、作業順番の変更などで、難易度を下げる
・短期的な生産予定でなく、中長期の予定を組み、稼働率を上げる
(2) 中期計画を立てる
全体が最適になるような中期計画を組むことが重要である。3~5年単位の計画を立て、会社全体でプロジェクトを共有することで、部分最適にならずに進められる。
・各部署でバラバラに進めない
・会社全体で取り組む
・定期的に進捗確認をする
(3) IT技術・ロボットの情報収集
受発注から在庫まで一元管理できるシステムや、産業用ロボット・協働ロボットの技術は日々進化している。管理ソフトや、センサ、画像処理能力はとても優秀である。最新のIT技術やロボット情報には常にアンテナを張り、収集することが重要である。展示会や、デモンストレーション、貸出機を利用して、最新の技術でどんなことが解決できるのかを知っておくことが重要である。射出成形工場向けの導入事例を参考に、各社の違いを吟味しておくべきである。
(4) 部分的に導入する
今まで人がやっていた作業を、すべてIT技術やロボットにそのまま移管するのではなく、その作業の一部を検査機やロボットに作業させることが重要である。
・データ管理
・ゲートカット
・パレタイジング
・外観検査
・梱包 など
大規模設備の導入は、既存システムからの移管が難しく、1つのトラブルが全体の稼働停止につながる。リスクを分散する意味でも、部分的な導入からスタートがおすすめである。
(5) 検査機やロボットなどの高額な設備導入は最後に
いくらロボットが便利でも、その導入コストは高額である。安易に導入したことで、その能力を十分に発揮できず、倉庫に眠っている設備をよく見かける。とは言え、人件費の高騰、人手不足は待った無しの課題である。先を見越して、ロボットに慣れるという意味では、試験導入は進めることをおすすめする。
射出成形工場における実例紹介
(1) 工場の見える化
・成形機のデータロガー
成形機メーカーや、ソフトウェアメーカーは、工場内のすべての成形機の生産データを収集し、集中監視できるシステムを提供している。射出成形において特に重要な、射出圧力、充填時間、最小クッション値、計量時間、1サイクルなどのパラメーターが毎ショット記録される。以前は、各成形機から直接データを収集していた。履歴の保存ショット数に限度がある成形機もあり、数日前に起こった当時の成形条件は追えないこともしばしばあった。データの集中管理システムを導入することで、原因追求にかかる時間と手間を大幅に短縮できる。
(2) 画像検査機
目視で行っていた外観検査を、画像検査機を導入することで自働化できる。ただし、画像検査機だけでは機能しない。検査前後の輸送機の配置、良品投入場所、不良判定品の廃棄場所など、システム全体をカバーする必要があり、大がかりな装置になる。画像検査機・輸送機が複雑に連動するため、基本操作とトラブル対処操作を習得しなければ使いこなせない。例えば、量産時に、画像検査機のカメラ部分にチリが付いた場合は、そのチリを不良と判定してしまい、すべてが廃棄されてしまうケースがある。画像検査装置の操作は慣れるまで苦労はあるものの、外観検査の人件費を削減でき、24時間外観検査が可能になる。
(3) 協働ロボット
モータートルクが比較的弱く、人と一緒に作業が可能なロボットを協働ロボットと呼ぶ。もし人と衝突した時は、非常停止するので安全である。段ボールの組み建て作業や成形品の移動など、繰り返し動作に適している。協働ロボットは難しい動作設定の操作が不要で、ロボットハンドを直接動かし簡単に動作設定できる。安全柵が不要で、省スペースであり、従来の環境に馴染みやすいため、初めての自働化・省人化に最適である。
導入における課題
(1) IT技術、ロボット操作、メンテナンススキル
導入課題の1つが、工場内に専門知識を持つ人がいないことが挙げられる。射出成形工場では、一般的に成形機と取り出し機の操作がメインである。ロボットの取り扱い、動作設定やメンテナンスがいくらやさしくなったとは言え、導入初期はゼロからの習得になる。ロボットメーカーの主催するセミナーはあるが、すべての操作を網羅できるわけではない。導入したロボットは、実際に現場で使いながら覚えていくことになる。デジタル人材教育に加え、習得したスキルが属人化しないように、手順書を整備して周知していくことがポイントである。
(2) 自働化で工数が増えてしまう
IT技術やロボットを導入したら、その点検やメンテナンスが必要になる。自働化により、今までやっていた作業は減ったけれど、新たな作業が増えてしまったという悩みも多い。特に、自働化推進直後から自働化がある程度進むまでの間は、一時的に工数が増えてしまう。しかし、自働化を進めていくことで、作業が効率化していきシステムが構築されていくものである。
射出成形工場における自働化・省人化について解説してきた。自働化は一朝一夕では達成できない。工程の最適化、ムダ取り、人材育成と合わせて、計画的に進めていく必要がある。