ポリ乳酸樹脂(Poly Lactic Acid, PLA)は、原材料を植物のでんぷんや糖を100%用いる植物由来樹脂で、石油系原材料を一切使用しない環境に優しい合成樹脂です。しかも、廃棄後は土の中に天然に存在しているバクテリア(微生物)の酵素によって、水(H20)と二酸化炭素(CO2)だけに完全生分解される素晴らしい特性を持っています。水と二酸化炭素は、植物の葉緑体によって光合成を経てでんぷんや糖に戻ります。つまり、ポリ乳酸樹脂は、半永久的に炭素の形を変えただけで循環していることになり、カーボンニュートラルな理想の環境素材として活用が可能です。
しかし、この優れた樹脂は、愛・地球博で華々しくデビューしたものの、思った以上に社会への普及は進んでいませんでした。その理由のほとんどは、材料価格がポリプロピレンやポリスチレンと比較して3~4倍も高かったため、経済的な理由から採用されるチャンスはごく一部のプラスチック製品に限定されていました。しかし、昨年あたりからポリ乳酸の原材料の供給能力が増大したことにより原材料価格は明らかに低下を始めており、さらに量産効果でコストは下がる一方です。他方、石油由来の樹脂は、中近東の紛争リスク等により原材料価格が上昇しており、ポリ乳酸と石油由来樹脂の価格差は2倍の範囲内にクロスする状態になりつつあります。このように、ポリ乳酸の市場参入を阻害していた原材料価格の要因は着実に解消されてきています。
これからは技術的な課題がクローズアップされてくるフェーズに入ってくるでしょう。
ポリ乳酸が抱える技術的課題は主に次のようなものが指摘されています。
- 課題1 耐熱性が低い(実用耐熱温度は60~70℃)
- 課題2 流動性が悪い(メルトフローレート2ぐらいしかない)
- 課題3 ガスバリアー性が低い
- 課題4 透明性が不十分
このような課題を解決するために、様々な手法が研究開発されています。
例えば、耐熱性の改善では、天然鉱物をナノ・コンポジットして結晶化度を高めて実用耐熱温度130℃の樹脂が市販されています。これは100%天然素材のポリ乳酸です。
また、流動性が悪い点を克服するためにはバルブゲートを用いることで薄肉成形品の射出成形もできるようになってきています。さらに、超臨界微細発泡射出成形を使うと流動性が飛躍的に向上してかなり薄い成形品を射出成形することもできるようになります。
着色は天然素材を用いた生分解性インクも市販されています。さまざまなアイデアを盛り込むことでポリ乳酸は使い捨て容器や文具、日用品などに採用が急速に増えてくることでしょう。