半導体デバイスやディスプレイデバイス、ハードディスクなどの電子デバイスおよびこれらを組み込んだ電子機器は半導体素子の高集積化、高速化、低電圧化に伴って、従来以上に静電気の影響を受けやすい。半導体製造工程で発生する静電気による各種障害は製品の信頼性や歩留まりを悪化させる大きな要因となる。ここではクリーンルームの中で半導体を取り扱う際に発生する代表的な静電気障害について、技術士の鈴木孝氏(一代技術士事務所)が解説する。
- 誘導帯電
- 静電吸引(ESA:Electrostatic Attraction)
- 静電気放電(ESD:Electrostatic Discharge)
- 電磁障害(EMI:Electromagnetic Interference)
誘導帯電
静電気問題に先立ち、誘導帯電という現象について解説したいと思います。
流動や摩擦などで、不導体の原料や設備、備品に静電気が発生していたとします。この帯電物の近くにアースされていない非接地導体(浮遊導体)があると、この非接地導体に誘導帯電という現象が起こります。今まで電気的に中性であった導体が近くの帯電物の影響を受け、あたかも静電気が発生しているような状態になることです。具体的に不導体がプラスに帯電していたとすると、その近傍の非接地導体の不導体側はマイナス電荷を帯び、その反対側はプラスを帯びます。導体の中の電子が帯電物に引き寄せられ、導体の電荷の一部が分極した状態ともいえます。導体が誘導帯電を起こしている状態はとても危険で、分極した電荷を中和しようと放電が起ります。現場ではこの非接地導体が人間となるケースが多く、この対策は人間のアース、つまり導電性のある靴と床となります。
図1.誘導帯電(左)と誘導帯電を緩和しようと接地導体から放電が起きる(右)
静電吸引(ESA:Electrostatic Attraction)
静電吸引(ESA)とはデバイスもしくは環境中の粒子が帯電することで、クーロン力によりデバイスに粒子が付着し、表面が汚染されるというものです。デバイスに付着した粒子は、吹けば飛ぶというようなことはなく、なかなか取れないとされます。
粒子の付着起因の不良のケースを紹介すると大きく下記の4つが挙げられます。
図2. 粒子の付着起因による不良ケース
1.マスキング効果 | マスキング効果により付着粒子がプロセス反応を阻害し、粒子直下の基板に非正常表面が形成されてしまう。 | |
---|---|---|
2.堆積膜品質劣化 | 新たに薄膜を形成する時、すでに付着していた粒子の存在により品質不良を起こしてしまう。 | |
3.短絡 | 導電性粒子が配線間に接触して短絡を起こしてしまう | |
4.表面欠陥 | 塗装表面や液晶画面で見られるブツと呼ばれるもので、粒子が表面形状を乱してしまう |
基本的にクリーンルームの中の粒子サイズは1μm未満のものが多く、重力で落下せず環境中に浮遊しているものが多いのが特徴です。よって、下方一方向の気流に乗せて除去するという方法を採用します。しかし、ここでデバイスもしくは粒子が帯電していると、気流から外れてクーロン力の作用によりデバイス表面に粒子が沈着してしまいます。よってイオナイザーで空間除電するなどの対策があります。ここでのポイントは発生させたイオンも気流に乗せるということです。規模によっては空間除電をせず、スポット的な除電やクリーンベンチなどを導入する方法もあります。
なお、表面沈着粒子の計数測定には目視による顕微鏡試験、蛍光顕微鏡試験、表面付着粒子計数器などがあります。
また塵埃(じんあい)を発生させないためのクリーンウエアへの更衣、上司や部下間で粘着ローラーを使い、ウエア上に異物がないかどうかの相互確認、粘着マットの設置などといった対策の併用も必要です。
おすすめ商品
静電気放電(ESD:Electrostatic Discharge)
静電気放電(ESD)はいわゆる放電です。帯電したデバイスもしくは人体などから放電による大電流が回路素子を貫通することで、回路が熱破壊するというものです。現在、LSIの中で最も一般的に使用されている構造であるMOS(Metal Oxide Semiconductor)デバイスは一般に静電気放電にとても脆弱(ぜいじゃく)です。これは入力ゲートに薄膜の絶縁体を利用しているからです。ここに放電による高電圧パルスが侵入すると絶縁破壊が発生し、最悪の場合、半導体チップが破壊されてしまいます。素子の微細化に伴い、静電気放電対策はますます厳しさを増しています。
図3. 静電気放電(ESD)のイメージ
各種製造現場においては静電気帯電によって発生する電圧を、静電気管理電圧として管理・制限しており、例えば電子デバイスの製造工程などにおいては100V 以下に、静電気放電への感受性が特に高いハードディスクドライブの磁気ヘッド・スライダー工程では、10V 程度以下に抑えることが求められています。
静電気帯電の防止には、導電性の物体に対しては接地を行い、帯電した電荷を緩和させることが最も簡易的な手法です。繰り返しになりますが導電性物体は、金属だけではなく、人体も当てはまります。人体の場合は、接地されたリストストラップの装着や、帯電防止用の靴・服・手袋の着用とともに、作業スペースの床や台の導電性の確保などの作業環境の整備が必要です。
おすすめ商品
電磁障害(EMI:Electromagnetic Interference)
半導体業界で電磁障害(EMI)は概(おおむね)誘導帯電のことです。MOSデバイスを例にしますと、今まで電気的に中性であったものが、近くの帯電物の影響であたかも静電気が発生しているような状態になります。誘導帯電でMOSデバイスの絶縁破壊までは至りませんが、品質に影響が出る可能性はあります。近くの帯電物は作業員であるケースが多く、この対策は同様に人間のアース、つまり導電性のある靴と床が基本です。さらにリストストラップなども併用するとよいでしょう。
図4. 電磁障害(EMI)のイメージ
おすすめ商品
執筆:技術士 鈴木孝(一代技術士事務所)