静電気による事故を防ぐには、測定と除電が非常に重要である。ここでは、測定そしてイオナイザーによる除電対策の基本について、技術士の鈴木孝氏(一代技術士事務所)が解説する。
静電気の測定
静電気は目に見えません。災害防止の一環として、静電気の危険性の定量的な把握や、静電気対策効果の定量的な調査、安全管理のために静電気の測定が必要です。ここでは測定対象物の表面の帯電量を測定する電位計、人体除電を確実にすることを目的とした作業床の漏洩抵抗を測定する漏洩抵抗計、アースができているか確認することを目的とした接地抵抗を測定する絶縁抵抗計(メガー)の3つを紹介したいと思います。
電位計による測定
測定対象物の表面の帯電量を測定するには、通常非接触の電位計を使用します。帯電物体の周りには、帯電量に比例した強さの電界が発生しています。この電界の強さを誘導帯電という現象を使って検出し、電位として表すのが電位計です。静電気の大小は電圧の大小で表されます。つまり0.1kVと3kVだったら3kVの方が帯電量は大きいと言うことです。
表1.電位計で測定するとき注意する3つのポイント
1.測定対象物との距離 | 電位計は測定対象物からの電界の強さを測定するので、測定対象物との距離が遠ければ小さな値となり、距離が近ければ大きな値となります。よって測定対象物との最適な距離は、例えば10cmなど電位計の仕様書を良く確認する必要があります。製品によってはレーザー光で測定対象物との最適な距離を示す機能を付与したものもあります。 |
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2.測定対象物の大きさ | 電位計は測定対象物の面積がある程度大きいものという前提で作られています。よって仮に測定対象物の面積が極端に小さいものは小さな値として表示される可能性があります。 |
3.測定対象物と電極を接触させない | 誘導帯電という現象を使って検出するので電位計の電極は金属でできております。もし測定対象物と電位計の距離が例えば1mmなど放電する可能性のある距離であった場合、かつ、その環境が爆発性雰囲気であった場合、電位計の電極から火花放電が起こる可能性があります。よって爆発性雰囲気での測定は非常に危険です。防爆タイプの電位計もありますが、それは内部回路が防爆であるという意味であり、使用方法を間違えば電位計から火花放電が起こることもあるということをしっかり理解しておかなければなりません。製品によっては高い電位を示すと警告音が鳴る機能を付与したものもあります。 |
図1.電位計のメカニズム
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作業床の漏洩抵抗の測定
静電気のトラブルは人がいるところで度々発生します。つまり人体除電ができていない場合、従業員は作業場で静電気の電撃を感じるでしょう。最悪な場合、静電気による着火事故につながるケースがあります。
では、この人体除電の条件を阻害するものは何でしょうか。主に次の3つが考えられます。
- 床が不導体であった
- 人が不導体の上で作業していた
- 靴が不導体であった
この中で2と3については作業マニュアルで規定するなど社内の仕組みで比較的対策が簡単です。(例:3については静電気帯電防止の作業靴(JIS T8103)を履いて作業する)
しかし、1についてはどうでしょう。現在工場では塵埃や異物混入防止などを目的に、清浄度が求められ、見た目のきれいな、清掃がしやすい塗り床にされています。または顧客要求などにより、そのように塗り替えをされる工場も多いと思います。果たして、その床は導電性のある(静電気を逃がす)床でしょうか?
作業床の漏洩抵抗の測定法はJIS C61340-4-1で標準化されています。爆発・火災が発生する恐れのある場所では108Ω以下が望ましいという指針があります。床の施工業者は静電気のことなどは気にされていないと思います。よって私たち工場側が従業員の安全の確保を最大に考慮して注文しなければなりません。一度ご使用の床に導電性があるか測定してみていただきたいと思います。
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接地抵抗の測定
導体の静電気対策の基本はアースです。アースは恒久的な対策が必要です。したりしなかったり、邪魔だと外されたりするような対策ではNGです。アースが確実にされているかを確認するには絶縁抵抗計(メガー)を使用します。絶縁抵抗計の使用方法は次の通りです。
- 活線状態でないことを確認します
- 黒色の測定リードを接地側に接続します
- 赤色のリードを被測定物に接続します
- 適当な電圧を選択し、測定スイッチを押し電圧を印加します
- 表示が安定したときの値を読みます
導体と不導体の中間である電荷拡散性の材料もアースが可能です。これらアースができるものは接地抵抗が106Ω以下であることを確認します。例えばアースができていたつもりでもキャスターが不導体であったとか、アース線の先のクリップが塵埃で汚れて導通していなかったなどのうっかりミスもよく見受けられます。繰り返しますが、アースは恒久的な対策が必要であり、絶縁抵抗計(メガー)や回路計(テスター)により定期的に確認が必要です。
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イオナイザーによる除電対策
静電気対策の基本は、導体であればアース、作業者のアース、不導体の導電化などが挙げられます。しかし、導電化できない不導体の静電気対策は、イオナイザーによる除電対策が効果的です。
イオナイザーは電圧印加型、自己放電型、軟X線照射型などさまざまな種類のものがあります。もっとも広く使われている電圧印加型のイオナイザーは、電源から針状の放電電極に高電圧を印加し、放電電極と接地電極間で発生するコロナ放電で空気を電離して正・負イオンを生成するという仕組みです。つまり、高電圧をかけられた針の先から、イオンが発生し、対象物がマイナスに帯電している場合、プラスイオンが引き寄せられ、反対に対象物がプラスに帯電している場合はマイナスイオンが引寄せられて、静電気は中和して除去されるというものです。交流電圧を印加するAC方式は一つの放電電極からプラスイオン、マイナスイオンが交互に出るのでイオンバランス(プラスイオン、マイナスイオンの発生量の差は小さくて)が良いという利点があります。反面、有効な距離はDC型と比べると短いという欠点もあります。直流電圧を印加するDC型はプラス電極にはプラス電圧を、マイナス電極にはマイナス電圧を印加し、イオンは各電極から常時出るためイオン密度は高いという利点があります。反面、電極近傍では片方のイオンしか存在しないということにもなり兼ねず、実用上はプラスとマイナスの電極を対で使用します。電圧印加型式のイオナイザーは静電気対策にとても効果的ですが、放電電極の摩耗により塵埃(じんあい)が発生するという欠点があることも忘れてはなりません。
自己放電型のイオナイザーは、カーボン繊維や有機材料をベースにした導電性繊維を束ねて並べたもので、この一端をアースし、繊維の先端を帯電体の表面に接近するように保持して使うというものです。導電繊維入りの帯電防止作業服などがこれに該当します。仕組みが簡単で電力などを使わないという利点がある一方、一端のアースが確実にできていないと効果がありません。
軟X光照射型のイオナイザーはX線の電離作用を利用し、大気中の原子または分子をイオン化するというものです。塵埃の発生がなく、ガスの流動状態に関係なく安定した除電性能が得られます。窒素、アルゴンなどの不活性ガス中での除電、真空中の除電も可能です。しかしこの装置は労働安全衛生法の規制対象であることも忘れてはなりません。
図2.イオナイザーの種類
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執筆:技術士 鈴木孝(一代技術士事務所)