紙器業界では、大量生産をするために自動化が進められており、高速に搬送、加工することで静電気が発生しやすくなっている。また印刷業界は、業務の効率化のために設備稼働率を上げたいところだが、静電気が設備を止めてしまう原因の一つになっている。さらにフィルム業界では異物は大敵。異物による品質トラブルの原因の一つに静電気が挙げられる。これら紙器・印刷・フィルム製造プロセスにて生する代表的な静電気障害について、技術士の鈴木孝氏(一代技術士事務所)が解説する。
塵埃(じんあい)・異物
たとえば紙器の一つである段ボール製造は受注生産方式で製造されるケースが多いうえ、短納期を希望するお客さまが多いため、わずかな生産設備のトラブルでも納期遅れに直結することがあります。その原因になるのは塵埃(じんあい)や異物である場合が多くみられます。塵埃、異物に対する設備面での主な対策は、きめ細かい「原則整備」と「給油整備」による発生の防止ですが、紙を重ねて裁断機にかけてから移動するような場合は、圧力をかけた後に分離するため紙が帯電し、紙の面積が大きいとその分キャパシタとしての役割をするので大量の電荷が蓄積され、塵埃や異物を引き寄せてしまいます。
フィルム業界でも塵埃、異物は大敵です。フィルムには包み込んだ内容物の劣化を防止することを目的とした機能があるため、必ず信頼性試験を行います。そこでは機能を維持するための耐久性がどれくらいあるか、温度や湿度を管理した環境で加速試験をするわけです。簡単にいえば「何年長持ちするか」を調べる試験です。フィルム上の塵埃、異物によって「浮き」が生じ、この厳しい信頼試験の通過を阻害してしまいます。私たちはスマートフォンを買うとディスプレーに保護フィルムを貼ると思います。その時に画面に異物があると、保護フィルムが浮き上がったようになりますが、この状況がフィルムでも起こるものです。
静電気による塵埃、異物対策には、静電気の測定とイオナイザーによる静電気対策で紹介した電圧印加型や自己放電型のイオナイザーによる除電対策が有効的です。設備や対象物に合わせた形状や仕様のものが多数提供されていますので、適切なものを選びましょう。
フィルム製造に使われるクリーンルーム空間に漂う塵埃は電荷を持っているため、クリーンルーム専用の大規模なイオナイザーで空間除電を行う場合もあります。空間除電をすることで塵埃は除電され、クーロン力の支配が外れ、さらにクリーンルーム内の気流に乗せることで除去でき、結果トラブルの発生確率が減少します。
フィルム成型プロセスでは静電気の除去だけでなく、クリーンルームのパーティクル管理も大切です。クリーンルームの清浄度を、パーティクルカウンターを用いて適当に保ちます。クリーンルームの中に材料を持ち込む際は、異物の付着がないように原料を洗浄させ、作業員もエアシャワーを通り、持ち込みをなるべく避けるようにします。
また、除電して塵埃を引寄せないという対策と並行し、発塵を最小化する措置もとります。例えば、製造室入室前に設ける粘着マットや作業場の静電気防止クリーンマットなどです。
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原反(フィルム)の詰まりや搬送系のトラブル
印刷業界では、例えば年賀状やセールのチラシ印刷を頼む時、しっかりと準備に時間をかけて依頼する人はあまり多くなく、直前に注文する傾向があります。このように顧客の短納期に応えるため、印刷の現場では原反の詰まりや搬送系のトラブルを抑えてなんとか印刷機を止めたくないものです。フィルム製造における、巻き取ったロールから次のプロセスへの連続搬送でも同様です。
このような原反の詰まりや搬送系のトラブルの一因に静電気があります。帯電した原反、フィルム同士あるいは搬送経路のパーツと引き合って、円滑な移動が阻害されて停止してしまいます。
このような障害の対策は、前項と同じく搬送部に電圧印加型や自己放電型のイオナイザーを使用するのが効果的で、さらに搬送系の摩擦を軽減させるための給油も有効です。
印刷不良(ヒゲ汚れやインキの飛散)
印刷プロセスで静電気が原因となる不良に、ヒゲ汚れやインキの飛散があります。これは印刷時、原反に帯電している静電気により、乾燥不十分なインキ塗膜が引っ張られ、印刷物の周りにインキがヒゲ状にはみ出したり、跳ねたようになる現象です。品質にあまりこだわらない印刷であれば構いませんが、高度な仕上がりを要求される印刷では大問題です。
このような場合も、帯電除去のため電圧印加型や自己放電型のイオナイザーを使用する他に、界面活性剤などの薬剤塗布も対策となります。
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火災
さらに、静電気によって火災が起こる危険性もあります。例えば油性インキを使用するグラビア印刷などです。主に圧ローラーと印刷物の間で静電気が放電し、インキに引火するケースです。
この場合、設備のアースはもちろんですが、電圧印加型や自己放電型のイオナイザーを使用するなどの対策が必要です。また近傍(きんぼう)で作業者から放電する可能性もありますので、確実に人体も除電することが求められます。
執筆:技術士 鈴木孝(一代技術士事務所)