(1)液面からの熱損失
表面処理工程の特徴は、各種処理浴の液面を、製品の処理のために、常に開放しておく必要があることです。保温や保冷のために、頑丈なフタをしてしまえば熱損失は防止できますが、仕事はできません。
前回、処理槽の槽璧や槽底部の保温・保冷対策についてお話しました。これらの対策は、現在の実用上の技術や資材の提供から、これ以外の方法は見当たりません。ましてや、槽類の多くは、一度設置すれば簡単に移動できないものばかりです(【図1】)。
そこで、今回は、液面からの熱損失防止を考えてみましょう。常温より高い浴温のめっき槽や脱脂槽などの液面からは、熱が放散されるため浴温度が低下します。これは、処理液中の水分が蒸発して気体になって放散されるためと、液面と空気との接触面で熱伝導によって起こる熱移動のためです。
この時失われる熱は、主に、水の蒸発潜熱で、浴温度が高いほど放熱量は多くなります。各温度における蒸発潜熱量は、さきに表示した「蒸気表」から求めることができますが、【図2】に示した温水液面からの放散熱量の風速0 m/sに該当します。
図は、液面の風速について損失熱量を検討していますが、これには訳があります。
表面処理工程では、クロムめっきや陽極酸化処理(アルマイト処理)のように、電気分解によって水素ガスや酸素ガスが発生し、それに電解液が同伴して(ミスト)飛散し、作業環境を著しく汚染するものがあります。これらのうち、クロムなど有害物質を含むものについては、労働安全衛生法で「局所排気装置」を設置するよう義務付けでおります。すなわち、液面上の空気を吸い取って、液面以外に飛散するのを防止し、吸い取った空気は、水などで洗浄し、浄化した空気だけを外部へ放出させます。水に移行した有害物質は、別途、水処理をして無害化されます。
常温より低い浴温のアルマイト処理槽などでは、逆に、外部から熱を吸収して浴温が上昇してしまいます。