前処理も含めた湿式表面処理において、水素の発生は、次のようなときに起きます。
例えば酸洗工程では、次のような反応が起きます。
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このように酸化物だけの溶解では水素は発生しませんが、鉄鋼も溶解しますと、水素イオンが発生します。
また、亜鉛めっき工程では次の反応により、亜鉛の還元と、水の電気分解で水素イオンが生成され、これが水素になります。
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このようにして発生した水素イオンは、直ちに原子状の水素Hとなり、これが鉄鋼内の格子間に侵入して、水素脆性を引起します。
この場合、亜鉛めっきに投入した電気エネルギーが、全部、亜鉛金属の析出(還元)に使用されれば、水の電気分解は起きず、水素の生成はありません。このような状態を、陰極電流効率=100%といいます。
この陰極電流効率は、めっき浴の組成や、陰極電流密度など使用条件によって異なります。一般的にいえば、ニッケルめっき浴など弱酸性の単塩浴では陰極電流効率は良好ですが、シアン化亜鉛めっき浴などアルカリ性の錯塩浴では低い傾向があり、電流密度が高いほど水素が発生します。
さらに、めっき時に水素発生を支配する因子として、水素過電圧の問題があります。水素過電圧とは、水素イオン(H+)が素地金属の表面で放電して原子状の水素(H)、さらに水素ガス(H2)となって出始める電位までの電位差のことで、金属の種類や、金属表面の状態などで異なります。一般に、融点の低い金属で大きく、表面が粗いほど小さくなる傾向があります。水素過電圧が小さいほど、水素が発生し易いということになります。
したがって、金、銀などの貴金属めっきでは、水素が発生し易く、亜鉛や錫めっきでは、水素が発生しにくいとされています。たとえば、鉄鋼に亜鉛めっきするとき、初期に鉄の水素過電圧が小さいため水素が発生し易く、一旦亜鉛で覆われると水素過電圧が大きくなるため、水素の発生が少なくなるといわれています。
ここで発生した水素は、原子状水素として素材中へ侵入します。水素ガスとしては、素材中へ侵入することはできないといわれています。従って、発生した水素が全てガス化して放散されれば、水素脆性は起きないことになります。このような反応を促進する薬剤を添加した、めっき浴の開発が待たれます。