水素脆性の危険のある製品は、通常めっき後に、脱水素処理としてベーキング処理を行なっています。ベーキング処理は、一般に190〜220℃の炉中で加熱して、水素を追い出します。加熱する時間は、めっきの種類や前処理、皮膜厚さ、鋼種、素地の表面状態などにより異なります。
(1)めっき前処理とベーキングの効果
前処理で全く水素を吸蔵していない素地に亜鉛めっきを施した場合と、前処理で水素を吸蔵した素地の上に、水素脆化を起し易い亜鉛めっきを施した場合のベーキングによる脱水素の効果を、【図1】及び【図2】に示します。
【図1】は、酸洗のように、水素吸蔵を起す前処理をしなかった素地に亜鉛めっきを施すと、亜鉛の皮膜をとおして水素を吸蔵しますが、約1時間のベーキング処理で、全ての亜鉛浴種で効果があります。これは、亜鉛めっきでの水素の侵入は、めっき初期に行われ、一旦亜鉛で覆われると、亜鉛は水素透過率が低いため水素の侵入は阻止され、皮膜厚さが厚くなると、その効果は更に高まるからであると思われます。
【図2】は、前処理の酸洗時に、多量の水素を吸蔵し、且つ、亜鉛めっき時にも水素を吸蔵した場合で、長時間ベーキング処理を行っても、鋼中の水素は、僅かしか除去されません。
従ってベーキング処理を有効にするためには、前処理の段階で水素の吸蔵を防止するか、水素を吸蔵した場合には、何らかの脱水素処理を行う必要があります。防止方法としては、適当なインヒビターの採用など、後者の方法としては、酸洗直後に、アルカリ脱脂浴など高温浴への浸漬が考えられます。
二つの【図】から分かるように、水素脆化防止対策として、塩化アンモニウム亜鉛浴の採用は効果があるように思います。