(6)鋼の硬度とベーキングの効果
ベーキング処理の効果は、素材である鋼の硬度によっても異なります。硬度が高いほどベーキングの効果が悪く、硬度が低い場合には、良い結果が得られる傾向があります。
これは、ベーキングにより鋼中の水素が放出したのではなく、硬度が低い場合には鉄鋼表面の水素がベーキング処理によって鋼の内部に拡散移動し、鋼表面の水素濃度が破壊限界以下になるためと考えられています。
光沢亜鉛めっきやカドミウムめっきでは、鋼の硬度がHRC40付近以下の水素脆性感受性の低い鋼の場合にはベーキング処理が有効といわれていますが、HRC46以上の鋼では、ベーキング処理の効果はないといわれています。
浸炭処理した材料では、表面層だけが硬いために、ベーキング処理の効果があります。これは、吸蔵した水素が熱拡散により材料内部に拡散移動して、破壊限界濃度以下になるためと考えられます。しかし、水素が材料中にあるわけですから、引張り応力が印加されると、その集中部に拡散移動することも考えられます。
(7)ベーキング処理のまとめ
めっき製品に対するベーキング処理の効果をまとめると、次のとおりです。
1. | めっき前処理で吸蔵された水素は、ベーキング処理しても除去効率は悪い。 | |
2. | めっきのときに吸蔵した水素は、ベーキング処理の効果が高い。 | |
3. | ベーキングの効果は、めっき皮膜の水素透過性に左右される。結晶の粗い皮膜、ポーラスやクラックの多い皮膜の方が効果は大きい。 | |
4. | めっき厚が厚いほど、ベーキングの効果は低い。 | |
5. | ベーキング処理の温度が低いほど、効果は低い。 | |
6. | 水素脆性感受性の低い鋼では、ベーキング効果は高い。 | |
7. | めっき後のベーキング処理までの放置時間の影響は、素材の肉厚に関係し、薄板では影響しない。 | |
8. | ベーキングにより、鋼内部へ水素が拡散移動する。 | |
9. | めっき後のクロメート処理は、ベーキング処理が終わってから行う。それは、クロメート処理後にベーキング処理を行うとクロメート皮膜が脱水してクラックが発生し、耐食性が劣化するからである。 |