金属を酸洗いすると、酸によって金属が溶解して水素を発生します。また、電解脱脂や電解酸洗い、電気めっきでも水素が発生します。この発生した水素が素地金属、特に鉄鋼に吸収されて鋼を脆くします。この現象が水素脆性です。水素脆化した製品は、ある荷重が負荷された状態が維持されると、やがて破壊が起こります。表面処理された鉄鋼が、どの程度水素脆化したかを知る、測定法を調べてみましょう。
(1)デルタゲージ
高田研究所の高田幸路氏が主宰するデルタリサーチ社によって開発された方法で、水素脆性感受性の高い鋼鈑を試験片として、バイスによって定速度(たとえば10mm/分)で押し曲げていき、破壊させ、破断した距離を測定し、鋼の柔軟性の低下率を測定することによって、水素脆性の程度を評価する方法です。
これは、「低速押し曲げ破壊法」とも呼ばれています。デルタゲージの測定原理を【図1】に示します。
【図】において、
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とすると、
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で示されます。
試験片には、材質:SK5(C0.85%)、形状:9×100×0.8t、焼入れ温度850℃、焼き戻し温度450℃、硬度HRC52、(49、45)が用いられます。
測定方法は、平板の試験片を測定機のバイス間に挟み、バイスを一定の速度でゆっくり送り(バイスを締めていく)、試験片を押し曲げていきます。もし、水素が吸蔵されていれば低速度で押し曲げていく際に、吸蔵されている水素は引張応力のかかった部分へ拡散移動し蓄積していくため、水素吸蔵のない試験片に比べて脆く折れ易くなります。同様の試験を、水素を吸蔵していない試験片について行い、上式から水素脆化率を求めることができます。
このようにデルタゲージは、水素脆化率を簡単な操作で数値化できますので、表面処理の現場でも適用できる優れた測定法といえるでしょう。