切削工具選定時に、「コーティング」の有無で悩むことがあるだろう。コーティングされた切削工具を適切に使用すれば、工具の長寿命化などの効果が見込める。ここでは切削工具のコーティングの基本的な効果と、選定のポイントを紹介する。
切削工具のコーティングって必要?期待できる4つの効果とは
切削工具の母材に限らず、物質には「硬さ」と「じん性」の関係がある。「硬さ」と「じん性」は、反する性質であり、両方を兼ね備えた「1つの物質」はない。しかし、昨今の高能率な加工に必要な工具には「硬く、ねばい(欠けにくい)」性質が求められる。それを両立させるために、コーティングが開発されるようになった。つまり「じん性がある母材」に「硬さをもつコーティング」を施す方法で両立させようということだ。もちろんコーティング自体も、硬ければ硬いほど、もろく欠けやすいものになる。
表1 硬さ、じん性の特性
硬さ | 材料(特に表面)の抵抗力の程度。 硬ければ硬いほど、摩耗しにくいが、欠けやすい |
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じん性 | 材料のねばり強さ。じん性が高ければ高いほど、摩耗しにくいが、欠けやすい |
コーティングされた切削工具を適切に使用することで期待できる主な効果は、以下のとおりである。
表2 コーティング工具の期待効果
1.摩耗耐性の向上により、工具の寿命が延びる |
2.耐溶着性の向上により、面粗度が上がる |
3.耐熱性の向上により、切削速度アップが可能となり、切削時間の短縮が図れる |
4.潤滑性の向上により、切りくず排出性が高まる |
コーティング工具の選定は、加工内容、被削材との相性を考慮することが重要
コーティングはあれば良いというものではない。加工の内容によっては、コーティングが悪影響を及ぼしてしまうこともある。一例として、一般用のノンコートのタップに追加でTinコーティングをかけ、加工したところタップ切りくずの形状が安定せず、切りくずの噛み込みを起こしてしまった事例がある。
製品として売っている切削工具は、加工内容毎に最適化された仕様・特長を持っている。(コーティング付きのタップでも切りくずの形状が安定する仕様であるなど)つまりコーティング工具を適切に選定するには、コーティングの特長をカタログなどで理解し、加工内容、被削材との相性を考慮することが重要といえる。
なお、最近のコーティングは、「硬ければ硬い程よい」ではなく、「欠けても性能を維持できる」ことを目指すようになってきている。例えば異なるコーティングを幾重にも重ねた「複合多層コーティング」がその代表である。この「複合多層コーティング」は、特にクーラント使用時の激しい温度変化によるコーティングの割れである「サーマルクラック」が工具母材まで伝播することを防ぎ長寿命化につながる。このように、コーティング工具は図1のような歴史で進化を遂げており、今後ますます「付加価値」を求めて開発されていくだろう。
図1 コーティング工具開発の歴史