成形不良対策
- 射出成形機や周辺機器は、どこまでメンテナンスしているだろうか?新しく導入した設備も年月を重ねるごとに不具合が出るものである。現場からは「忙しさから推奨されている点検整備がおざなりになる」「さまざまな人に使われている」「設備メンテナンスの知識がない」などの声がよく聞かれる。こうした結果、設備にトラブルが発生し、気付いた時には手遅れになることも少なくない。一方で手のかけ方によって寿命が全然違ってくるのも事実だ。そして寿命の差は、そのまま利益に直結する。ここでは手遅れになる前に「絶対にやっておきたいメンテナンス」について解説する。
- 成形条件の作り方は、金型形状や不良状況によって様々である。一概に「これが正解」というものはなく、顧客要求に合致することが重要だ。そしてそれは経験に勝るものはない。しかしながら、先に「知識」を付けることでトラブルやミスなどを防止することができるのも事実である。ここでは積極的に条件作りのチャレンジするために知っておきたい基本知識を紹介する。
- ひけ(sink mark)は、成形品の表面が収縮によって、ほんの少し凹んだりする現象です。外観表面を有する成形品では、品質不良になるケースがあります。ひけが成形品の表面に現れないで、成形品の内部に気泡(空洞)が発生する場合もあります。これはボイド(void)と呼びます。ひけもボイドも溶けたプラスチック樹脂が冷却固化する過程で、異常な収縮を起こすために発生する現象です。 これらの不良を防止するためには、根本的に異常な収縮を抑制する手段を講ずることで解決が図られます。 ひけを解決するためには、下記のような手段が考えられます。
- 射出成形の条件として、樹脂温度と保圧がありますが、これらには密接な関係があります。射出成形が可能な領域、言い換えれば良品が成形加工できる領域は、無限にあるわけではなく、ある一定範囲の前提が満たされた場合に限定されます。 【図】には、樹脂温度と保圧の2元関係を図示しています。 この図からは、次のようなことが判ります。
- 射出成形に使用される熱可塑性樹脂(Thermoplastic resin)は、金型の中に加温されて液状になった状態でキャビティ内へ注入されて、金型の表面に接触することで熱量を奪われて冷却され、固化します。 このときに、液体のときの体積は、固化する際に体積収縮を起こして縮みます。この現象を「成形収縮」と呼んでいます。英語ではshrinkageと言います。 成形収縮は、プラスチック射出成形品を作る上では大変重要な物理現象です。所望の寸法や形状の射出成形品を生産するためにはこの物理現象を的確に理解しなければなりません。 さらに、射出成形金型の設計や機械工作をする際には、成形収縮を考慮した寸法と寸法公差でキャビティなどを作る必要があります。 成形収縮は、熱可塑性樹脂の種類によって大きく範囲が決定されます。つまり、樹脂の種類によって収縮率は左右されます。しかし、樹脂の種類以外にも以下の要素を考慮しなければなりません。
- プラスチック成形材料の中で、熱可塑性樹脂を射出成形によって金型のキャビティ内へ流動させる場合、溶けた樹脂はある粘度を持った流体としてスプルー、ランナー、ゲートそしてキャビティ内を流動します。流動抵抗によって樹脂の流速や圧力は変化します。そして、樹脂の粘度は金型の表面に接触することによって温度がだんだん低下していって、粘度も時々刻々と低下していき、最後には流動ができない状態まで粘度が低下していきます。 流動ができなくなるまで冷却されてしまいますと射出成形加工がそれ以上不可能になってしまいます。このように熱可塑性樹脂の射出成形加工では樹脂を流動させることができる距離が成形品の厚さやランナーサイズに左右されることがわかります。
- プラスチックは、大別して熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂があります。読者のほとんどは、熱可塑性樹脂の射出成形金型た成形加工に携わっていると思いますが、最近では熱硬化性樹脂の射出成形加工も行われるケースも増えてきています。 基本的な事項ですが、熱硬化性樹脂と熱可塑樹脂ではその性質が大きくことなっています。これらを整理してもう一度復習を図りたいと思います。
- プラスチックの強度を改善するためにガラス繊維を添加したプラスチックが使用されていますが、通常のガラス繊維の長さは0.3〜0.6ミリ程度に止まっています。しかし最近では、ガラス繊維長さを6〜15ミリと極めて長くして添加する長繊維強化プラスチックが開発されています。 長繊維強化プラスチックの特徴は次の通りです。
- プラスチックの強度を強化するために、材料にガラス繊維を添加したプラスチックが射出成形で使用されています。ガラス繊維は、それ自身がプラスチックよりも強度を有していますが、ガラス繊維のみでは耐衝撃性が低くもろい特性がありますので、プラスチックと混合されることにより、もろさの弱点を回避した成形材料として実用に耐えられるようになります。 ガラス繊維入りプラスチックは、射出成形の際に以下のような現象が発生することが知られていますので、使用に際しては留意が必要になります。 (1)配向の発生 ゲートからキャビティへ流入する際に、ガラス繊維が流れの方向に沿って並んでしまう現象が発生しやすくなります。この現象は、配向(オリエンテーション)と呼ばれています。配向の発生によって、成形収縮率が流れ方向と流れに直角方向で大きな不均一が生じます。 また、引張強度や圧縮強度が繊維の方向によって変化します。
- 熱可塑性エラストマー(TPE、Thermo Plastic Elastmer)は、射出成形が可能なゴム状の成形材料で、各種の用途で実用化されています。 熱可塑性エラストマーには、いくつかの種類があって、特性ごとに応用分野が異なってきます。 以下に主な種類と特性を紹介します。
- ジェッティング(ジェットフロー)は、成形品の表面に蛇行した「くねくね模様」が現れる外観不良です。 ジェッティングは、ゲートからキャビティ内に射出された樹脂が、一気に猛スピードでキャビティ内を流動し、ゲートと反対側の壁に衝突した後に、ゲート近傍から充填が進行するために発生します。 熱可塑性プラスチックの射出成形加工とは物理現象は異なりますが、イメージとしては、練り歯磨きチューブをギュッと握ったときに、歯磨きペーストが不安定ににゅるにゅると空中に射出される現象と類似した、粘性流体の挙動であると考えてください。 ジェッティングの対策は、以下のような方法が考えられます。
- プラスチック成形材料は、一般にペレット状態に加工されて、紙袋などに入れられて原材料メーカーから搬入されてきます。 ペレットには、大気中の水分が吸湿されていますので、水分が多く含まれたままで射出成形加工してしまいますと、樹脂の種類によっては加水分解を発生したり、物性が低下したりする場合があります。また、銀条(シルバーストリーク)が成形品の表面に発生したり、ガスによるショートショットや焼けが発生しやすくなる場合もあります。 そこで、成形材料の多くは、ホッパードライヤーへ投入する前に、箱形乾燥炉で予備乾燥させることが必要になります。 予備乾燥は、適切な乾燥温度と乾燥時間を守ることが推奨されます。適正な温度以下でいくら長時間乾燥させても、水分は思うように排除できない場合があるからです。予備乾燥が終わった材料は、できるだけ早く使いきるようにします。余ってしまった材料を後日使用する場合には、再度の予備乾燥を行いましょう。 【表1】には、特殊なプラスチックの予備乾燥条件を示しています。 【表1】プラスチック成形材料の予備乾燥湿度
- プラスチック射出成形では、細いリブの先端部等にガス焼けが発生し、成形品の一部が黒変し炭化してしまう現象が見られる場合があります。 ガス焼けの発生メカニズムは、金型のキャビティ内部の空気が、キャビティ内部に流入してきた溶融プラスチックによって排気される際に、行き場のない閉塞状態となってしまった場合に、空気が圧縮されるために自己発熱し、それによって燃焼するために発生します。 空気は、気体ですので圧縮されますが、圧縮に伴って発熱します。自転車のタイヤに空気入れで空気を送り込む時に、空気入れが熱くなるのと同じ理屈です。 キャビティ内部の残存空気の圧縮は、通常0.1〜0.5秒程度の短時間に発生し、しかも1平方センチあたり200〜500kgfもの高い圧力で圧縮されるので、簡単にプラスチックの燃焼温度まで昇温してしまいます。(【図】参照)
- プラスチック射出成形金型を設計するためには、使用する成形材料の特性を十分に知り尽くすことが重要です。 特に微妙な品質管理を必要とする成形品の場合にはなおさらです。 成形材料の特性データは、材料メーカーが提供する樹脂データと、実際にユーザーが使用による蓄積で得たデータがあります。 成形材料の特性データの中では、以下のファクターが重要です。 (1)成形収縮率 成形品の寸法を、ねらい通りのばらつき範囲内に抑えるためには、実用的な成形収縮率データが必要になります。 成形収縮率は、下記要因によって左右されます。 成形材料の種類 キャビティ表面温度 射出圧力 保圧の作用状況 ゲート位置 成形品の肉厚 流動方向 ガラス繊維等 これらのデータは成形条件を固定して、試験金型や実際の金型を使用して、サンプルを採取することが実務的です。
- プラスチック成形材料のペレットは、一般的に空気中の水分をある割合で吸水しています。 吸水量が多いと、射出成形機のシリンダーの中で溶融混練している過程で樹脂が加水分解を起こしたり(水を引き金として化学分解を起こす樹脂もあります)、射出成形した際に成形品の表面に銀条(シルバーストリーク)が走ったり、気泡、光沢不良、転写不良などを起こすことがあります。 そこで、成形材料のペレットは、あらかじめ乾燥装置に投入して水分を除去することが必要になります。 予備乾燥を適切に行わないと、流動性の変動や物性の低下、成形不良を引き起こす原因となります。 乾燥装置には、以下の種類が主に使用されています。 (1)熱風乾燥機 ホッパードライヤーと箱形乾燥炉が代表的な装置です。熱風をペレットに吹きかけて水部を蒸発させる方法です。 一般的な簡便な乾燥方法ですが、水分を充分に取り除きたい場合には適していません。