鉄鋼製品に電気めっきなど表面処理を施すと、水素脆性を起すので、使用中に破断する危険性があるなどとよくいわれます。それでは、水素脆性とはどんなものでしょうか。
JISにも、幾つかの定義があります。「前処理およびめっき操作の過程で、被めっき物が水素を吸蔵してもろくなる現象」(電気めっき用語)、「鋼中に吸蔵された水素によって鋼材に生じる延性または靭性が低下する現象。この現象は、酸洗、電気めっきなどの場合に生じることが多い。また、引っ張り応力が存在すると割れに至ることが多い。」(鉄鋼用語)、いずれにしても、材料が水素によって脆くなる現象をいっています。
水素脆性の発生
水素脆性は、かなり古くから知られており、特に高炭素鋼のばね材料を電気めっきする際に問題になっていました。技術的に注目されるようになったのは、宇宙航空機産業において高強度鋼が広く使われ、高強度鋼を用いた航空機のめっき部品の破損事故が多発した1950年代の末期からといわれています。
それではどのような表面処理が水素脆性を引起すのでしょうか。一般的な表面処理方法の分類を【図】に示しました。
湿式方法は、水溶液を使う表面処理法であるため、素材表面で水素の生成が起きれば、水素脆性の危険があるといえます。
一方、乾式法は、表面処理自体では水溶液を使用しないので水素脆性の危険はありませんが、前処理に脱脂、脱錆といった酸やアルカリ類を使用した湿式処理がありますので、やはり水素脆性の危険があるといえるでしょう。
このように、ある製品の水素脆性の有無を論じる場合、主たる表面処理だけでなく、一連の表面処理工程全体を検討する必要があります。