CVD(Chemical Vapor Deposition)法による表面皮膜合成は、つぎのような特徴をもっています。
1. | 材料の融点より、はるかに低い温度で材料の合成ができる。たとえば、タングステンを600℃位の温度で析出することができる。また、α型酸化アルミニウムを1000℃、炭化珪素を1200℃で析出させることができる。 | |
2. | 析出物質の形態は単結晶、多結晶体として、あるいは粉末、繊維、膜、バルク状として析出可能である。 | |
3. | 浸透性が強いので、基板表面のコーティングばかりでなく、ミクロンオーダーの隙間の内側や細孔の内面、粉体にもコーティングが可能である。また不浸透性の緻密な層を析出することができ、これは化学的テストや顕微鏡観察では、ピンホールの存在は認められない。 | |
4. | 多成分系で構成されるセラミックスでは、その組成を容易に調整できる。また析出層の微細組織は、反応物質、合成条件によって制御することできる。これは他の方法では得られない方法である。 | |
5. | 蒸着速度が速く、容易に厚膜が得られる。数μm〜数100μm/minの速度で、mmオーダーの厚さも可能である。 | |
6. | プロセスが簡単なので設備費が低廉である。完全無公害のクローズドシステムが可能。排気ガスは単体であり、他のハロゲンガスは水溶性であるため、水洗浄で捕捉可能である。 |
また、処理に当っては、次のような注意が必要です。
熱CVDを金型に採用する場合、その対象は工具鋼でありますが、適用鋼種の適正焼入れ温度が、CVD処理温度より高いことが必要です。
鋼には必ず炭化物が存在しており、温度が700℃位まではフェライト領域で非常に安定ですが、例えばTi系皮膜(TiN、TiC、TiCN)の場合、成膜温度は1000℃のオーステナイト領域でありますから、鋼中の炭化物は固溶され、この固溶した炭素と導入ガスとの反応も活発になります。このため、鋼中の炭化物の種類や量は熱CVDによる膜生成に多大な影響を与えます。
また、1000℃位の高温に長時間さらされたり、成膜後に焼き入れ焼き戻しのために再加熱されるなどのために鋼中の炭化物の凝集や脱炭が起こり、鋼を脆化させます。