イオンプレーティングは、真空蒸着と同様な真空容器内で蒸発した薄膜材料の蒸気をイオン化して、負の電圧を印加した基材にたたき付けて皮膜を形成するものです。真空蒸着はどちらかといえば密着性が劣りますが、本法はこれを改善したもので、チタン系やクロム系の硬質膜の成膜に使われ、切削工具や金型など使用条件の厳しいものに用いられています。最初に、直流法が登場しましたが、現在は次のような4つの方法に大別できます。
(1)活性化反応蒸着法
ARE法(Activated Reactive Evaporation)といわれ、イオン源の上部に設置されたリング状または板状のプローブ電極(+極)によって、イオン化が行われます。イオン源の加熱は電子ビームで行います。皮膜表面は滑らかで、温度上昇の少ないのが特徴です。
(2)高周波励起法
RF法(Radio Frequency)といわれ、イオン化の促進は、蒸発源上部に設けられたコイルによる高周波振動によって行います。ARE法と同様に、基板の温度上昇が少ないのが特徴です。装飾用や機能性付与のために、金属膜や種々の化合物膜の生成に用いられます。
(3)中空陰極放電法
HCD法(Hollow Cathode Discharge)といわれ、アルゴンガスによる中空陰極放電による電子ビームを用いるもので、低電圧大電流によって蒸発物質の溶融と同時にイオン化を行います。前2者のように特殊なイオン化装置は必要としません。工業的には、装置上部から垂直に照射する垂直ビーム型が普及し、TiNなど切削工具などに用いられています。
(4)アーク蒸着法
アークイオンプレティング(Arc Ion Plating)、カソードアークイオンプレイティング(Cathode Arc Ion plating)、マルチアークイオンプレイティング(Multi-arc Ion Plating)などいろいろな名称で呼ばれていますが、原理はみな同じです。前3者は蒸発材料を坩堝に入れて蒸発させますが、本法は、蒸発源をターゲットとして直接アークで蒸発させます。そのため、蒸発源の設置位置に制約を受けず、自由に選択することができます。だだし、成膜時に塊状物が生成しやすく改善が急がれています。しかし、他の方法では困難な合金膜の生成が容易であるなど多くの特徴があります。