【図1】は下向き絞りの金型構造を示しています。この金型構造は、主にフランジのある絞り加工に使われる構造です。
ダイの中にノックアウトを組み込んだ構造です。下向き絞り落とし型(円筒絞りの金型製作の要点 その4)で示した絞り落とし型と違って、ダイR下のストレート部分(ベアリング部)は長くても問題がありません。ベアリング部が短いと、絞り加工によって下げられたノックアウトが、ベアリング部下の逃がし部に引っかかり上がってこなくなる危険があります。
パンチとしわ押さえ用のスプリング長さとの関係等は絞り落とし型と同様です。
【図2】は下向き絞り型の加工行程を示したものです。 (a)はブランクがネストに置かれた状態です。この状態では絞り落とし構造の金型の注意点と変わりありません。
(b)は絞りが完了した状態です。フランジはしわ押さえによって、常にダイ面へ押さえつけられています。
(c)は上型が上昇して、製品から離れた状態を示しています。下死点からこの状態に至るまでの間に注意が必要です。
絞り終わった(b)の状態では、しわ押さえのスプリング、ノックアウトのスプリングともに働いていますが、パンチがあるためにスプリング力の影響はありません。パンチが戻り行程に入ったとき、
(1)ノックアウトのスプリングが強い場合
パンチの戻りに合わせて、ノックアウトは製品を挟んだ状態で上昇します。このとき、製品のフランジはしわ押さえを押し上げます。パンチが上昇することによってしわ押さえのスプリングは元に戻る分けですが、下から押し上げられるため、しわ押さえのスプリング力の減少がわずかであったり、ときには、瞬間的にしわ押さえ力が増加するように働くことがあります。製品が弱いと、このためにフランジが変形することがあります。
(2)しわ押さえのスプリングが強いと
パンチの戻り行程でしわ押さえのスプリングが強いと、パンチは上昇しますが製品はダイの中に留まります。パンチの戻りに比例して、しわ押さえ力は弱くなります。ノックアウトの押し上げ力と釣り合ったときから製品は上昇して、ダイから抜けていきます。この状態がこの金型構造の正常な形です。このとき、製品の底とパンチの先端は接していないで空間があります。ノックアウトのスプリングが強いと絞りの底を凹ませることがあります。ときには側壁が座屈してしまうこともあります。しわ押さえのスプリングが強すぎるときに置きます。
しわ押さえのスプリングとノックアウトのスプリングの強さは、強ければよいというものではありません。強すぎる弊害もあります。注意して下さい。