粉体を取り扱う技術は食品の小麦粉や建設用セメントの扱いばかりでなく、新材料創成や、従来材料に新しい機能を付与するために有効な技術である。しかし主に生産の過程・途中で利用されるため、あまり一般の目に触れることはない。ここではこの粉体の特長と計測方法について技術士の吉原伊知郎氏(吉原伊知郎技術士事務所)が解説する。
はじめに~粉は魔物・粉は生きている
粉体取り扱い業界では先達者達から「粉体は、世に出るまでの仮姿」とか、「粉は魔物」、「粉は生きている」などといわれており、なかなか経験則を数式化することができていません。
『寺田寅彦[1]随筆集第四巻』(岩波文庫2003年第69刷)によれば「粉状物質の堆積は、ガスでも、液でも、弾性体でもない別種のもので、これに対して「粉体工学」があるはずである。近ごろ、土壌の力学に関連してだいぶこの方面が理論的にも実験的にも発達してきたようではあるが、それはしかしほとんど皆静力学的なものであって、「粉体の運動」に関する研究は皆無といっても過言ではない」と、1933(昭和8)年2月に述べられており、これをもってわが国の「粉体工学」の嚆矢(こうし)とされています。
ここに述べられているように「連続体」であるガス体、固体(弾性体)、液体に比べ、現在の表現を借りれば、粉体は「離散体」であり、粉体層を形成する固体微粒子同志が、どのような力で関係づけられているか(つながっているか)ということを無視して議論することはできません。
さらに、粉体のその粒径に関しては「分布」があり、環境である気体の状態によっては静電気を蓄え、液体の存在によっては「液架橋現象」という、固結、付着・閉塞といったプロセス上のトラブルを起こします。はたまた、その膨大な表面積により、有機物の粉体ばかりではなく、金属の粉体も、劇的な爆裂反応を引き起こし、人間社会に多くの災害をもたらしてきました。
この記事では「粉、粉体、粉体層」、それも付加価値を与えられた機能性粒子の集まりである粉体の取り扱い例を示し、一般社会には知られていない世界を解説します。関係する業界は医薬品はじめ食品や化粧品、触媒、飼料、肥料、樹脂、セラミックス、繊維、種子ほか、近年開発途上の3Dプリンター粉体積層法の業界など、私たちの生活に大きな関わりを持つ分野です。
表1. 粒体を扱う業界(粉と粒の不思議:三輪茂雄著に筆者加筆)
1.食品 | 小麦粉、米粉、そば粉、砂糖、塩、だしの素顆粒、ワサビなど |
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2.薬 | 散剤、顆粒剤、錠剤(口腔内速崩壊錠)、崩壊制御性、 ドラッグデリバリーシステム、コントロールリリース粒子、漢方薬など |
3.樹脂 | PVC、ABS、PE、PP、SAP、PVA、PETなど |
4.セラミック | 陶器、碍子、触媒、焼結材、半導体 |
5.農業関係 | 肥料、コーティング種苗、ハイブリッド種 |
6.火薬類 | 花火、エアバッグの初動材、建設補助材料 |
7.機能性粒子 | トナー、バッテリー材料、触媒、歯科材料、印象材、人工骨材 |
8.バイオ技術分野 | 木質バイオ燃料、メタン発酵 |
9.副生産品(粕類) | 焼酎粕・コーヒー粕、茶ガラ |
10.新材料関係 | ナノ粒子、画像関係、キャパシタンス、二次電池素材、etc |
11.人間の感性に関わる技術 | 花火、真珠塗料、表面構造色、機能性食品、化粧品、香料スパイス |
12.その他 | 脱酸素剤、養毛剤、おむつの中身 |
なぜ、粉体が問題なのか
産業用に使われる機能性粉体といえば、有用に働く粉体群のことを指しますが、一般に発生する粉は必ずしも有用なものばかりではありません。春の花粉症を引き起こす「スギ花粉」や、雪解けの道路で巻き上がる道路コンクリ―粉塵(ふんじん)、西の大陸から飛ばされてくる「黄砂」も粉体です。ここでは「いかに有用な価値ある粉体を創製して目的にあった粒子とするか」という「産業に用いられる粉体プロセスの問題点」を以下に解説いたします。
問題点①粉の流れやすさ・流動特性が一定ではない
気体や液体は、流れやすさという観点において、私たちは一定のイメージを持つことができます。宇宙空間や極低温の特殊な環境では別ですが、人間の生活環境では、圧力をかければ液体や気体は、圧力が高いほうから低いほうへと流れ出ることを、体験的に知っています。ところが粉体は、固体微粒子の集まりであるがために、砂時計をイメージしていただければ容易に分かりますが、いくら圧力をかけても(層高を高くしても)、流れ出る速度は穴径と粒子径が一定であれば、圧力には関係がありません。圧力はほとんど粒子から壁へと伝えられ、出口近傍の粉体まで伝わりません。ましてや粉体に微量でも液体が存在すると、固体粒子と液体・気体の「混相流体」の形態を示して、私たちの一般的自然現象イメージとは異なった流れ方を呈します。
この「流れ方の不規則性」が粉体特有の「付着」、「固結」、「閉塞」、「団粒化」それに「偏析」という現象を引き起こし、生産プロセスの流れを停止するトラブルとなります。
問題点②粉の流れが器壁に対して「摩耗現象」を起こす
粉体エロ―ジョンという専門用語で表すことが多いですが、気体でも液体でも、少量の微粒子が含まれていると、装置構成材料の固体表面に極めて短時間で「摩耗」が発生し、器壁が変形損傷するばかりでなく、製品である粉体の側に器壁の構成材料(例えば鉄成分)が混入し、製品の品質を阻害することがあります。この現象を逆手にとって、硬い材料の表面研磨や表面粗さ調整に利用されることもありますが(ブラスト研磨や、溶射技術)、粉体を用いたプロセス現場では多くの場合、やっかいな問題となります。
問題点③粉が一度「漏れ」を生じると、増し締めをしても止まらない
気体や液体は「増し締め」という業界用語で示されるように、シール部やパッキン部位に漏れが発見されると、その部分のボルトなどの「追加増し締め」を行うことで多くの場合、漏れ現象は停止します。パッキンのフレキシブル性が、加圧することで隙間にパッキン材料を押し込み、漏れを止めるのですが、粉体が絡んでいると、パッキンは変形しても粉を押し出すことができないため、その部分から粉は漏れ続けます。業界ではこれを「粉の道ができた」と呼び、分解掃除と新しいパッキンを挿入することが求められます。対策方法は後述いたしますが、製品のロスやプラント現場の作業環境悪化、人的衛生の問題ばかりでなく、粉塵(ふんじん)爆発の原因となり得ますので、この現象の排除に先達(せんだつ)たちは大いに頭を悩ませました。
問題点④粉は生きている…先人の教え
多くの実験室がそうであるように、物性の調査や装置との運動量移送現象、熱的移動現象を実験値としてとらえるため、粉体材料を実験室に運び込み、小型装置で確認実験を行います。特に「パフォーマンス保証を行う」場合は、確認実験が必須です。ほとんどの機械メーカーは、特定材料と特定装置との関係性を化学工学的数値の測定でスケールアップし、粉砕や乾燥や造粒現象の保証を行います。
ところがものによっては、プロセスの中で得られる粉体特性は実験室で移送され、保管された原料と異なる場合があります。例えば計量供給の前プロセスで、原料ホッパーから空気輸送で運ばれてきた粉体層は、装置に直結したクッションホッパーの中で空気を多量に含んでおり、1週間実験室の倉庫で保管した粉体層とでは「嵩(かさ)密度:重さ/単位体積の値」が異なっています。言い換えれば、空気を含んでいる容積分だけ軽くなっています。その結果、容積基準の定量供給機では、所定の重量の粉を供給できません。業界では「容積型の供給機」は現場で再調整するべく回転数に余裕を持ち、かつ回転数調整可能型にすることが常識です。
また、例えば「スパイラル羽根」を持った容積型供給機は、その回転数で供給量を制御しますが、空気を多量に含んだ粉体層が一気に投入されると、スパイラル羽根の部分で停止せずに、液体の様にスパイラル通路を流れて連続的に排出されてしまうことがあります。これは「フラッシング」と呼ばれる現象で、もはや回転数での粉体供給量制御はできません。この場合は「脱気」という扱いが必須となります。
問題点⑤粉が蓄熱し、発火し、爆発する
粉体は、その周りに多くの空気層を保持しているため、保温性が高くなっています。雪の結晶粒子が有名ですが、雪洞の中は思いのほか暖かく、多くの登山家が雪山で命を保っているように、粉体を利用した保温材は化学プラントには欠かせません。しかしながら一方で、乾燥を終了した小麦粉はその温度のまま保管すると、翌朝に発煙して焦げ臭を持ち、食品として使い物にならなくなりますので、乾燥後は速やかに冷却することが望まれます。
さらに蓄熱している粉体部分に、大量の酸素を含む空気を流すと火炎となります。密閉されている容器中では、圧力上昇による爆発ともなり得ます。粉体という形態では、すべての可燃性有機物は爆発現象を起こす可能性があるのです。英語で「powder」といえば、一般的には火薬の意味を含みます(powder roomは女性がお化粧する部屋という意味)。
プラントの粉塵爆発事故は、企業の存続にかかわる問題ですから、事前に対応しておく必要があります。生産現場で有機溶剤や粉体を扱っている以上、火災や爆発の危険をゼロにすることはできませんが、火災や爆発に起因する事故損害・損傷をなくすことは可能です。
このように、あらかじめ粉体の特性を十分知り、粉体挙動を理解することによって、各現象の対処手段を講じておけば、各種の問題現象や火災、爆発が発生しても驚くことは何もありません。
これら対応策の一例は後述いたしますが、次に粉径の主な測定方法を解説します。
粉体粒子径の計測方法
粉体の物性を理解するためには、その粒子径を把握しておくことが極めて大切ですから、古来から目的に応じて様さまざま測定方法が「商品の仕様を表示する方法」として開発されてきました。
このような背景から、業界により慣習的に用いられる粒子径の表現が異なっています。例えば食品業界では「メッシュ表示」、セメント業界は「比表面積表示」など、直接ミリメートルや、ミクロンメートルなどの「寸法」を表す表示ではないこともあり、その業界で粉を扱う歴史的な経緯が、その呼び方に表れているといえます。
以下に代表的な測定方法を記載いたします。粉体粒子径表示には必ず測定方法を付記するのが、業界の決まりです(原理の異なる測定手法では、同じ粉体でも、表示される「相当径」が異なるケースがある事は、粉体業界では良く知られています)。
「篩分け手法」
最も一般的な表示方法ですが、確実に異物や粗大粒子を取り除くには、最も確実な手法です。各地域によって若干基準が異なりますが、わが国では「JIS z 8801」で規格化されています。古くは「タイラー篩(ふるい)」と呼ばれる、タイラー社の篩が広く使われており、1インチ角の中に、いくつの「網の目開き孔」があるかで表示数値:メッシュが決まっていました。
網の線径が決まれば、おのずから目開き孔の数と、その目開き寸法が決定します。この手法でも用いられた篩のメッシュ数で、粉の仕様を表示します。粉体エンジニアはこの目開き孔の寸法数字を、数か所、以下の様に暗記しているのです。
- 16メッシュ:1000μm(ミクロン・メーター:1/1000mm)
- 32メッシュ:500μm
- 100メッシュ:149μm
- 200メッシュ:74μm
この業界ではこれら4つを暗記しているのが常識ですが、食品業界では篩を食材の前処理として常時用いるので、篩の目開き:メッシュ数を聞けば、粉体の物性が感覚的にイメージされます。例えば米粉は100メッシュアンダー品ですが、小麦粉は200メッシュのアンダー品であることが、おいしい団子やおいしいパンを製造するために必須の条件となります。
この方法は球形に近い粒子であれば問題ありませんが、縦横比の大きい長い粒や、繊維のような長い円柱状粉には縦抜けと呼ばれる現象が発生し、正確に対象物の物性を表さないことがあります。
顕微鏡などの画像を対象に、面積や体積で求める「幾何学手法」
この場合、その代表数値を円形や球形に換算した「相当径」で表すため、扁平な粒子やエッジのある粒子は、同じ相当粒子径でもその物性(流れやすさなど)は異なり注意が必要です。しかしながら最近の画像処理技術の進歩に伴い、オンライン・リアルタイム測定によって一瞬に粒径と粒度分布が測定できるようになりましたので、比較指標としての利用価値が、増大してきています。
沈降速度や拡散速度の違いで測定する「動力学的物理量」
粒子径を直接測定するのではなく、流体中を一定の速さで沈降する速度が、ニュートンの式やストークスの式で代表されるように、粒子密度と流体の密度差、および粒子の断面積に比例することから、粒子相当径を求める手法です。
この場合は、粒子密度をあらかじめ計測しておくことが求められます。密度差が小さい時には遠心力を用いる場合もあります。
散乱光強度や、遮蔽光量など、粒子と「光の相互作用量」によって粒子相当径を求める手法
レーザー解析法と呼ばれる一連の装置が業界では良く使用されていて、その範囲は3mmから0.1μmといわれています。あくまでも「球相当径」として結果が表示されます。レーザー光線は微粒子の存在によりさまざまな角度の散乱させられ、それをレンズの検出で測定し、回折理論によって粒子相当径とその分布を計算します。
比表面積・細孔分布測定法
ガス吸着法や水銀圧入法によって比表面積を計算します。一般的にBET法と呼ばれる手法は、単位質量当たりのガス分子が吸着する面積を表し、この値が大きいほど粒子径が小さいか、形状的に表面凹凸があります。同じ形態の粉体であれば、細かい粉体であるほどこの値が大きいと評価されます。表面の活性が大切であるセメント業界では、セメントの粒子の機能を知る一つの指標として、この比表面積値をもって製品の評価を行っています。
表1 粒子計測方法の一般的分類と特徴
測定法 | 粒子径の物理的意味 | 測定量 | 特徴・留意点 |
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ふるい分け法 | 幾何学径 | 重量 | 古典的だが有効、多くの業界で通用する。 |
画像解析法 | 幾何学径 | 投影面積/長さ | 画像処理に注意、重なり画像がある。 |
沈降法 | ストークス径 | 透過量 | 重量法、光透過法、x線透過法等 がある。 |
レーザー回折 | 光散乱相当径 | 光強度 | 粒子の屈折率に注意。 |
電気的検知法 | 幾何学径 | 電圧変動 | 測定範囲に注意。 |
光子相関法 | ストークス径 | 光強度変動 | 測定範囲と分布幅に注意。 |
クロマトグラフィー法 | ストークス径 | 透過光量 | 分解能に注意。 |
その他、比表面積(粒子径に反比例)を測定して、粒子径の比較とする例あり。 |
執筆:技術士 吉原伊知郎(吉原伊知郎技術士事務所)