印刷・パッケージ業界では、紙の断裁加工等によって生じる紙粉対策に細心の注意を払っている。なぜなら紙粉によって製造トラブルや事故を引き起こしたり、製品の品質に影響を与えかねないからだ。ここではこの紙粉に起因するトラブルとその対策について技術士の石垣文寿氏(株式会社テクノリンクス)が解説する。
オフセット枚葉印刷現場での紙粉問題
製紙会社から入荷した紙の水分管理が不十分の場合、そのまま印刷すると紙の寸法が安定せず、咥(くわ)えと咥え尻で見当が合わなくなるだけでなく、ブランケット上に紙粉がたまり、それが絵柄に転移、付着してクレームになります。その場合は、シーズニングと呼ばれる調湿作業で紙表面の紙粉を落とし、破れや毀損(きそん)している紙を除去しながら、印刷職場の環境に調湿してから使用します。「紙は生き物だ」と言われるゆえんです。
オフセットインキは粘度がある硬めのインキです。表面強度の弱い紙では紙粉だけでなく紙ムケ等も誘発し、印刷のベタ部分を汚します。できるだけ紙粉の少ない紙を使うか、常々印刷機を停めてブランケットを洗浄するかしか手はありませんので、生産効率も上がりません。製紙メーカーのさらなる技術向上と対策に期待するにしても、印刷現場の紙粉対策は、怠(おこた)る訳にはゆきません。職場環境の調湿管理、印刷前の紙表面へのウエットローラ掛け、もしくは紙粉、埃除去のウエブクリーナー等を使った粉塵対策は、絶対に必要です。
紙器カートンにおける紙粉対策
紙器に使われる紙は、マニラボールや白ボールといった「白板紙」と言われる紙で、一般のオフセットの枚葉印刷で使われる紙に比べて、坪量(重さ)や厚さの大きい多層抄紙構造の紙が多く使われます。これがカートンブランクを打ち抜く際に紙粉を多く出します。
紙器カートンの生産工程は、図1に示す通りです。
図 1 紙器の生産工程
板紙にオフセット印刷した絵柄を、箱の展開形状で打ち抜きし、ブランクを作成します。このブランクをサックマシンにて癖折した後に胴部分を糊貼りし、直サックや逆サックの箱を作成します。この工程で問題になるのが打ち抜き時の紙粉対策と、サックマシンでの起函トルク確保、それに罫割れの対策です。白板紙には、印刷効果を向上させるべく表面平滑度を上げるためクレーやタルクなどを塗工した塗工紙があります。これが打ち抜きの際の刃物の摩耗に影響を及ぼします。切れなくなった抜き刃を使うと、より一層紙粉や塗工紛が飛散するのです。つまり紙器の生産工程の中で大切な事は、ビク抜き刃の切れ味管理という事になります。ブランクをサックマシンのフィーダー部分に積み上げる際に、その断面がぼそぼその状態では、いつ紙粉が箱の内側に混入するか不安です。コロコロの様な粘着ロールを掛けたり、ブロアーとバキュームで局所吸塵したりしなければならないのでは、無駄な手間が掛かります。一方、起函トルクは箱を自動製函充填機に架ける際の箱を起こすときの力で、この起函トルクが安定しなければ、充填作業がスムーズに出来ません。そのためにも紙の含有水分を一定に保つよう工夫する事が大切です。
牛乳カートンにおける紙粉対策
牛乳カートンや、お酒の紙カートンは、内面に紙の断面が出ない様、工夫されています。
牛乳カートンの紙の断面処理方法として「スカイブ」という工程があります。図2に示すように容器の内側に紙断面が出ないように紙の厚さの半分を削り取って折り返し、容器の中に入った牛乳と紙断面が直接触れないようにしています。
図 2 端面処理「スカイプ」工程
牛乳カートンの自動製函機にこのスカイブ工程も組み込まれており、削ったカスや紙粉は局所吸引で除去される仕組みになっています。この部分はグラインダーを掛ける様に紙表面を削るので、紙粉発生個所です。この場所の局所排気装置とグラインダーの切削管理が大切です。牛乳カートンから牛乳を飲もうとして、紙粉や紙が出てきたらどんな気がしますか?即クレームですよね。
軟包装の紙化の動きと紙複合容器
地球温暖化やマイクロプラスチックの海洋汚染問題などから、包装においては「脱プラ」、「リサイクル」、「紙化」の動きが出ており、これは大きな変革期といえます。プラスチックは人が作った粘土として、その特性を最大限に生かして様々な分野で利用されました。しかし、中身を取り出した後は、ごみになります。最近包装廃棄物が特に目立つようになり、包装・容器に対する風当たりが常に厳しくなりました。筆者は本来包装の利便性を享受した消費者が、包材を廃棄物として海に流さない!という確固たる意識とその管理の問題だと考えるのですが、如何でしょうか? そこで軟包材の分野でも紙化の動きが広がっています。昨今の風潮からプラスチックの使用量を最小限に抑えて、紙と組み合わせた紙複合包材が、今後ますます多くなるものと考えます。全体の包装材料の50%以上が紙ならば紙容器として表示できるためです。ただ紙の量が増えてくると紙粉の問題もそれにつれて多くなるので、当然ながら紙粉防止の対策をしっかりおこなうことが肝要です。また、紙とプラスチックの複合化に際しては静電気の問題も無視出来ません。
印刷の品質管理と工場の紙粉防止対策
オフセット印刷では紙粉汚れの様な不良品は紙粉が転移したに時にだけ発生し、そのほかは問題なく流れ、同一ロットの中でも汚れが出たりでなかったりします。さらにこれに色調も絡むので、印刷会社の品質管理は単純ではありません。また顧客ごとに要求される品質レベルも異なるので、品質管理基準も非常に曖昧になります。工業製品は「製造仕様書」に基づき作られ、規格の範囲から外れた製品は「不良品」に区分けされます。しかし印刷は、受注物なので顧客の求める品質レベルに合わせなければなりません。顧客が求める品質と数量の印刷物を納期にきっちり揃(そろ)えて納めなければならない宿命があります。従って印刷は「作業指示書」に基づいて製品を作るのです。「製造仕様書」ではないのです。それゆえ印刷物は「工業製品」ではなく、「工芸製品」という人もいます。印刷は「工業製品の紙とインキ」を使って、お客様の作品である「工芸製品」を作るのです。
そうはいっても従来とは印刷を取り巻く環境が異なります。人手不足が常態化し、省人化のための様々な設備を導入しないと生き残っては行けません。今や、いかに優秀な自動機器、検知機器を導入して合理的生産を行い、収益性を確保しながらクレームが発生しない安定品質を競う時代なのです。
顧客が求める品質要求は、今後ますます高度化し、難しくなる一方です。特に食品包装に関しては、食品の安全性を保障するためのシステム「HACCP」が導入されています。そこへ提供する包装材料は、やはりクリーンなものでなければなりません。このような中で生産の自動化と自動検査装置などの導入が進んでいます。
クリーン化を指向する印刷工場では紙粉を含めて発塵防止対策として、様々な改善が進んでいます。
作業環境改善⇒クリーンルーム化の推進
空気循環装置:「HEPAフィルター」を使い作業職場を若干陽圧化し、外から塵や埃が入りにくい建屋構造にしています。効率の良い作業導線の設備レイアウトに加え、空気の流れと湿度等をしっかり管理し、印刷材料や資材関係の出入り口はエアロック方式の準備室を、人の出入りはエアーシャワーを、入り口には粘着マットなども準備するようになりました。「濡れない霧」として売っている調湿装置などもその有効な手段と考えます。
局所清浄化の対策
パーティションや簡易ブースを使って発塵場所を区切ったり、局所排気装置を効率よく使ったり、エアーカーテンや、エアーシャワー設備などの導入がなされています。製造工程ごとに加工部屋を区切ったり、自動搬送装置(AGV)を導入したりするなど、極力発塵を抑えて部分環境をクリーン化する方向にも考えが進んでいます。
材料表面の管理と清浄化対策
材料表面に付着している紙粉を含めた異物を清浄化するためにウェブクリーナーを設置したり、表面状態を管理するCCDカメラを使ったり、さらには静電クリーナー(静電式空気清浄装置)、イオナイザー照射で静電気を抑えるなど様々な方法を組み合わせて、顧客の品質要求に答えるよう各社で工夫と努力を行っています。
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執筆:技術士 石垣文寿(株式会社テクノリンクス)