DLCコーティングパンチとは
アルミニウム合金を中心とした非鉄金属材料のプレス加工は製品の軽量化と塑性加工のしやすさから広く採用されるようになってきました。アルミニウムは鋼に比べ低融点・低硬度であるためパンチやパイロットパンチの刃先に凝着しやすく、穴径の精度不良やミスフィード等のトラブルを引き起こし、プレス加工現場で問題となっています。
凝着はパンチ(鋼)とアルミニウムとの親和性が高いことにより発生します。パンチ刃先のラップ処理やTiCNコーティングを施してもこの凝着の問題は解決できず、より平滑で摩擦係数の低いDLCコーティングの使用が増加しています。
従来のDLCコーティングは高硬度である一方、パンチ母材に対する密着性が悪く、早期剥離による凝着の発生が課題となっていました。
ミスミDLCコーティングはダイヤモンドの組成に極めて近い非結晶炭素膜であり、従来のDLCコーティングと比較して高硬度且つ高い密着性を有したコーティングです。凝着と凝着物の脱落によるパンチ刃先の損耗に効果があります。
DLCコート処理の技術諸元
膜種:非結晶炭素膜
硬度(HV):3000 以上
膜厚(μm):0.1 ~ 0.2
摩擦係数
(鋼に対し、無潤滑):0.15
耐熱性(℃):500℃
色調:干渉色※
※ DLCコート皮膜の膜厚により色味が異なることがありますが、DLCコート処理パンチの機能としては問題ありません。
DLCコーティングパンチの特長
1:高硬度
ミスミのDLCは水素を含まず、且つ極めてダイヤモンドに近い結合様式を形成することで、高硬度(3000HV以上)を実現しています。水素を含有する一般的なDLCコーティングは、水素が炭素結合を阻害するため、硬度が低下します。
2:低摩擦係数
ミスミのDLCコーティングは非結晶構造のため膜が平滑で、TiCNの摩擦係数0.3に対し、0.15という低い摩擦係数を示します。アルミニウム材との親和性は低く、耐凝着性に優れています。
摩擦係数が低いため、無潤滑でのプレス加工にご採用いただいた事例もあります。
3:高い密着性
特殊な下地処理を行うことで、高い密着性を実現しました。
DLCの皮膜は0.1 ~ 0.2μmと薄く、外力によるパンチ基材の急激な変化に対して追従し、耐クラック性に優れています。
【皮膜密着性評価結果】
ロックウェルの圧子により基材を塑性変形させ、皮膜の密着性を評価しました。
他社DLCコーティングはロックウェルの圧痕の周囲でコーティングが剥離しましたが、ミスミDLCコーティングは剥離やクラックが発生せず、パンチ基材との密着性に優れていることを確認いたしました。
試験方法:ロックウェル圧痕試験(Cスケール)による
剥離評価
試験荷重:150kgf
基材材質:SKH51相当(HRC61 ~ 64)
注意事項
DLCコーティングはアルミニウムや銅、真鍮など、低融点・低硬度非鉄金属のプレス加工への利用を想定しています。
鉄系材のプレス加工にご使用の場合、DLC皮膜内の炭素成分が鉄と結びつき、脱炭、膜の剥離・磨耗を引き起こすため、使用を推奨いたしません。
打ち抜き試験結果
《試験条件》
被加工材:アルミニウム合金A6061-T6
板厚:1mm パンチ先径:φ5
クリアランス:5% SPM:200
潤滑:無潤滑
パンチ材質:SKH51相当
他社のDLCコーティングは5万ショットからパンチ刃先に凝着が発生し、7万ショットでは剥離が拡大しています。ミスミDLCコーティングは10万ショット後も凝着が僅かであり、コーティングの剥離も発生していません。
コーティングTiCN処理は、1,000ショット時点で凝着が開始し、凝着がクリアランスを超える恐れがあったため即時試験を中止しました。
お客様のご利用実績
既にご利用いただいている一部のお客様での実績をご紹介します。
従来のパンチに比べDLCコーティングの採用でパンチの寿命が数倍に延びています。凝着の抑制以外にも、製品形状が綺麗に出るようになった、潤滑油の使用量が減った等の効果も確認されています。