打抜き打工具に必要な特性は、耐摩耗性、耐圧縮性及び靱性ですが、粉末ハイス鋼や各種表面処理方法の活用により工具の寿命は大幅に延びており、打抜き条件により使い分ける必要があります。
そのためのデータとして、SKD11、SKH51、SKH40(粉末ハイス鋼)の材質のパンチの打抜き寿命、座屈及び抗折試験の結果を以下に示すものです。
〔表1〕 使用した工具の種類
材質及び 表面処理 |
硬 度 (HRC) |
主要化学成分(%) | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
C | Mo | W | V | Co | ||
SKD11 | 61 | 1.5 | 1.0 | - | 0.3 | - |
SKH51 | 61 | 0.9 | 5.0 | 6.0 | 2.0 | - |
SKH40 | 65 | 1.3 | 5.0 | 6.5 | 3.0 | 8.0 |
1.打抜き寿命
打抜き条件
被 加 工 材:S55C 板 厚:1.0mm
パ ン チ 径:8.0mm ク リアランス:10%
ダ イ 材 質:SKD11 潤 滑:無潤滑
さ ん 幅:1.5mm 使 用 プレス:25Ton
打抜き速度:200SPM
試験結果
――側面摩耗状況――
打抜き数の増大に伴うパンチの側面摩耗面積の推移を〔図1〕に示します。
パンチの側面摩耗量はSKD11、SKH51、SKH40の順に減少しています。
〔図1〕 側面摩耗面積の推移
――かえりの高さ――
打抜き数の増大に伴うかえりの高さの推移を〔図2〕
に示します。
パンチの寿命はSKD11、SKH51、SKH40の順となっています。かえりの高さが50μmに達したときを寿命としています。
〔図2〕 打抜き数に伴うかえりの高さの変化
2.座屈及び抗折試験
試験条件
〔図3〕のように座屈荷重、抗折荷重(パンチ刃先先端から0.5mmの点にナイフ刃状の圧子で)を1mm/minの速度で加え、破損するまでの最大荷重を求めています。
〔図3〕座屈・抗折試験
試験結果
〔表2〕に示すように座屈、抗折力ともにSKD11、SKH51、SKH40の順で増大しています。特にSKH40は高硬度が維持できるために耐圧縮性に優れ、また、金属組織が微細で高合金成分(W、V、Co等)を含んでいるために靱性も優れています。したがって、折損や、チッピングの恐れのある打抜きには最適なパンチです。
〔表2〕座屈・抗折試験結果
材質および 表面処理 |
座 屈 | 抗 折 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
硬 度 [HRC] |
座屈荷重 [kgf] |
座屈強度 [kgf/mm2] |
比 [%] |
硬 度 [HRC] |
抗折力 [kgf] |
破断たわみ [mm] |
比 [%] |
|
SKD11 | 61.1 | 805 | 265 | 100 | 60.5 | 21.4 | 2.28 | 100 |
SKH51 | 61.5 | 946 | 301 | 118 | 61.8 | 26.8 | 2.37 | 125 |
SKH40 | 66.0 | 1168 | 372 | 145 | 64.8 | 29.8 | 2.37 | 139 |
*{N}=kgf×9.80665
3.まとめ
靱性、抗折力、耐摩耗性について、SKD11を基準とした場合の、それぞれの値を以下に示します。
- SKH51は座屈、抗折力ともに約1.2倍、耐摩耗性は2倍
- SKH40は座屈は1.5倍、抗折力は1.4倍、耐摩耗性は8倍
パンチの経済性
〔図4〕にS55Cの打抜きにおいての打抜き寿命コスト、寿命/コストを示します。SKD11を1とした場合、SKH51は1.5倍、SKH40は3.5倍の経済性が期待できます。
この打抜き寿命試験はS55Cで行なったものであり、他の被加工材では多少異なります。