ディコート®パンチとは
ディコート®パンチはTDプロセスによって形成されるバナジウム炭化物層の優れた特性を生かした画期的な標準パンチです。表面硬度は3200~3800HV耐摩耗用、耐焼付用パンチとして、その特性を発揮するだけでなく、トータル的なコストダウンが期待できます。
ミスミでは(株)豊田中央研究所からライセンスされた「金型標準部品へのTDプロセス処理及び販売」により、パンチの製造からTDプロセス処理まで一貫した工程で行なっている為、従来のパンチと同様、寸法精度の保証されたディコート®パンチを完成しました。
TDプロセスはトヨタグループの総合研究機関である(株)豊田中央研究所によって開発された「拡散表面硬化法」です。この方法は特定の元素(炭化物)を拡散、浸透させ、金属の表面に優れた耐摩耗性、耐焼付性を有する表面層を形成することができます。昭和45年、トヨタグループで実用化され、以来プレス金型、冷間鍛造型、鋳造型などの金型、刃物、治具、機械部品などの性能向上の目的に広く用いられています。
〔図1〕ディコート®パンチの断面組織
ディコート®パンチの特長
1.耐摩耗性:表面硬度
- ディコート®パンチの刃先部は4~7μmバナジウム炭化物(VC)層が被覆されています。
- VCは極めて硬く(3200~3800HV)、あらゆる物質に対して著しく優れた耐摩耗性を示します。
2.耐焼付性:耐カジリ性
- ディコート®パンチは、あらゆる材料に対して耐焼付性に優れています。
パンチに傷が発生しにくく、製品肌も良好です。
〔図2〕表面処理層の硬さの比較
〔図3〕鋼板のしごき加工における耐摩耗性および耐焼付性の比較
〔図4〕使用後の打抜きパンチ先端部の断面組織
3.靱性
VC被覆は母材の靱性を低下させません。また、ディコート®パンチは、高温で焼もどしされているため靱性が高く、一般のパンチに比べて折損の危険性が小さいという利点があります。
〔図5〕 抗折力の比較
ディコート®パンチの効果
1.ディコート®パンチは、広範囲な使用条件で耐摩耗性、耐焼付性を発揮します。
とくに次のような場合には単なるパンチ寿命の向上以上の効果が期待できます。
- 一般パンチでは摩耗が激しく、再研磨代が大きい場合
再研磨代が小さいので、再研磨所要時間が短い。廃棄までの再研磨可能回数が増加し、寿命までの全加工数が増加します。 - バリ高さで品質管理されている場合
バリ高さの増大速度が小さいので、バリ管理工数が減少します。 - 製品肌を重視する場合
カジリが生じにくいので、肌の良い製品が安定して得られます。 - 作業性の悪い潤滑剤、あるいは高価な潤滑剤を使用している場合
カジリが発生しにくく、摩耗が小さいので、潤滑剤を選びません。また使用量を減らすことができます。
2.ディコート®パンチ適用被加工材
鉄鋼 表面処理鋼板 非鉄 非金属 |
SS、SPC、SPH、SC、SCM、SK、SUS、高張力鋼、 珪素鋼など Snメッキ鋼、Znメッキ鋼、アルミナイズト鋼、 プラスチックコーティング鋼 AI、AI合金、Cu、Cu合金、Zn合金、Ni合金など ゴム、布入ゴム、布入ベークライトなど |
3.型補修工数の低減
図6はB社で使用している順送り型の型修理時間とTDの適用効果との関連性を調べた結果です。この型修理時間は曲げ、抜きパンチの再研磨、操作ミスによる事故などすべてを含んだ時間です。
この順送り型へのTD適用品は曲げパンチとダイのみですが適用時期と型修理時間の間には密接な関係があり、10万個生産当りの修理時間はTD適用前の約50時間が、TD適用後では15時間になっています。生産量の多いB社の場合この利益は大きいと思われます。
〔図6〕 TD処理による型修理指数の変遷