赤田工業株式会社
設 立 昭和39年8月11日
資本金 1,000万円
従業員 46人(男34名 女12名)※平成30年8月現在
取材地 赤田工業本社工場
一品から受注し、最適な真空製品に仕上げる
創業以来、金属加工や機械加工の技術で発展してきたが、自社ブランド製品を目指して既存の加工技術と真空技術を合体させ、セミオーダーの真空製品の製造に挑戦。
赤田工業が真空製品の製造に取り組んだきっかけは?
事業の成り立ちを語る赤田社長
当社の創業は1889年。北アルプスをのぞむ自然に恵まれた地で製糸工場の設備や修理を行う赤田鉄工所としてスタートしました。1964年に赤田工業を設立して以来、機械と職人技による金属、機械、板金などの加工を主な事業としています。
「鉄の料理人」という名称の通り、社員のほぼ全員が機械加工や溶接など何らかの技能士資格を取得し、それぞれの得意領域を活かして仕事に取り組んでいます。電子顕微鏡、半導体、液晶関連をはじめ、計測器や航空宇宙環境評価システムなど多種多様なニーズに対応する加工製品の製造を得意としてきました。
しかし、どんなに優れた技術をもっていても、受注した製品の機械加工や溶接だけでは、最終的に自社製品とは呼べません。 いつかは自社ブランド製品を世に送り出したいという思いはずっとありました。そこで、これまで蓄積した溶接や加工の技能と、電子顕微鏡の業務で培ってきた真空技術を合体させ、標準品に少し手を加えてお客様のニーズに最適な仕様に仕上げるセミオーダーの真空製品を製造することにしたのです。
現在、真空技術は当社がもっとも得意とする技術のひとつとなり、AKADAブランドの真空製品を提供しています。
赤田工業の真空製品はどのような製品ですか?
真空チャンバー
当社では真空タンクと真空チャンバーを製造しています。これらは内側に真空状態をつくり出す容器であり、通常は真空ポンプや真空バルブなどで構成された、真空装置として使用されます。材質はステンレスが多いですが、鉄やアルミニウムでの製作も可能です。
真空チャンバーや真空タンクを用いた真空装置は、半導体や液晶パネルの製造設備などの先端分野から、眼鏡のレンズのコーティングやフリーズドライ、レトルト食品など、身近な商品の製造にも広く活用されています。
当社ではこの真空タンクや真空チャンバーをセミオーダー、フルオーダーで一品から受注し、製造しています。主流は中〜大サイズですが、長さ3メートルのものや特殊な形状の真空チャンバーも製造できます。製品の基本形が四角形か丸型なので、応用がききやすいのです。
真空タンクの溶接工程の様子
真空状態でどのような処理を施すか、また何を検証するかによって、真空製品の仕様や真空の精度は異なるので、お客様の使用目的に最適な真空製品を社内一貫生産で製造しています。お客様の業種業態は問いません。
高度な職人技と厳密な品質管理で差別化
詳細なヒアリングによる設計、最新の設備と熟練の職人技を駆使した現場での製造、2段階の非破壊検査による品質管理により、ユーザーが信頼して使用できる真空製品を提供。
製造部門ではどんな点にこだわっていますか?
製造でのこだわりを語る小池様
真空製品は内部の気体が外に漏れないことが大きなポイントですが、複雑な形状の部分は機械化が難しく、熟練した職人の技が求められます。
なかでも重要なのが溶接で、どの程度の熱が加わるとステンレスなどの素材が何ミリ縮むかを予測し、手先だけでなく腕を固定し体全体を使って作業します。経験を積んだ職人の技で効率的に溶接し、高品質で見た目も美しい製品に仕上げます。
真空タンクの溶接作業
また、チャンバーやタンクの内部を丁寧に研磨して不純物を取り除くと、中の気体が容器に吸収・吸着されにくくなり、真空精度が高まります。お客様のご要望に応じて研磨も職人の手で仕上げ、精度の高い製品を提供しています。
品質管理ではリーク(空気漏れ)がないかどうか、2段階の非破壊検査を実施しています。まず製品に色をつけてピンホールの有無を調べるカラーチェックを2回行います。その後、ヘリウムガスを用いて微細な漏れを検知するヘリウムリークディテクタという装置による検査を行います。品質管理部門を軸とした検査体制が確立されておりますので、お客様には安心して当社の製品をお使いいただけます。
設計はどのように進めていきますか?
設計業務の流れを語る平林様
お客様のご要望を可能な限り製品に反映するため、受注後はメールや電話、ときにはお客様を訪問して詳細なヒアリングを行います。真空チャンバーや真空タンクの大きさ、形状、材質はもとより、ポンチ絵や文章では表現しきれないニーズや使い勝手に沿った仕様を把握し、設計図を作成していきます。お客様の要求レベルより一段階上の設計を心がけています。
お客様にお渡しする設計図は1枚ですが、実際に製品を製作するためには、部品図などを含めて5枚〜50枚程度の図面が必要となります。多くの部品を並行して製作対応していく中で、いかに図面を正しく読めるかが重要となります。当社では、設計はすべて3D-CADで行っておりますので、3Dモデルのイメージを図面に活用することにより、工場での正確な加工をサポートしています。
真空精度をさらに高め、製品提案力を磨く
大学の研究室や専門機関からの要望により、さらに精度の高い真空製品に取り組む一方で、経験から見極めたユーザーに最適レベルの真空製品の提案にも注力。
鉄の料理人としてどのような発展を目指していますか?
将来のビジョンを語る赤田社長
当社では製品の95%が受託製品で、一品一品の大きさや形状が異なります。複雑な形状の製品を精密に加工できる機械を導入し、お客様のご要望に応えられる製品づくりを進めています。
製品により全面的に機械化できない部分があるので、技能の伝承も欠かせません。若手の育成はOJTで丁寧に指導するとともに、入社から3年目までは設計から製作までの流れや図面の読み方を修得してもらいます。経験を重ね、センスを磨くことが大切です。
多品種少量生産のため、製品の多くは過去に手がけたことのないものです。 そこで失敗を恐れずに挑戦しないとプロとして成長できません。とはいえ一品ものなので 失敗はできないというプレッシャーもあります。そのバランスは難しいですが、経験と技術で乗り越え生産性を高めていく、そこに着実な進化があると考えます。
当社で真空製品のセミオーダー、オーダーが可能であることを広く認知してもらうため、ホームページにも力を入れています。最近はホームページからの引き合いが増え、英語のホームページも作成中です。
将来は海外展開も視野に入れています。当社ではインドネシアやベトナムの研修生を受け入れていますので、彼らの帰国後に何らかの形で連携したいと考えています。日本で製造した製品を輸出する、または詳細な図面を海外に送って現地生産するといった方向を目指しています。
真空製品はどのように進化していくでしょうか?
5面加工機
大学の研究室や専門機関から高度な真空環境への要望が増えてきました。たとえば地球内部のマントルと同等の超高温超高圧条件を真空チャンバー内で再現して研究に役立てたい、ロケット部品の機能評価のために宇宙空間を再現する真空環境が必要といったものです。こうしたニーズに応えられるよう真空精度を向上させてきています。
また、経験を重ねるなかで業種ごとに必要な真空条件が明確になってきました。真空の精度が高ければ高いほどよいと考えるお客様もいますが、お客様にとって本当に必要な真空レベルを見極め、よりコンパクトでコストのかからない製品の提案も可能です。今後はコンサルティング力も高められるでしょう。
幸い、真空製品が当社の売上げ全体に占める割合は年々伸びてきています。大学や研究機関からの問い合わせに加え、当社の真空製品をお使いのお客様からのご紹介や、既存のお客様のリピート受注もあります。製品の精度をさらに高め、研究開発部門の需要を掘り起こし、伸ばしていきたいです。
\ 赤田工業からミスミのお客様へ /
真空の利点は多く、真空技術を応用した産業の裾野は広範囲にわたっています。真空の吸引力を利用したり、製品の中から余分な気体を排出することができます。真空環境下では酸素が少ないために酸化反応を抑制します。また、気体分子が減少するため電気を通しませんし、真空断熱の効果もあります。現在、当社には半導体関連産業、液晶産業、自動車工業などのお客様からのご注文が多いですが、これからは医薬品や食品業界など、幅広い業界への展開を考えております。赤田工業では真空製品のコアとなる真空チャンバーと真空タンクを1点から設計製作対応しております。
お客様のご要望があれば、詳しい説明や2D、3Dデータもをご提供いたします。手書きの簡単なポンチ絵でもかまいませんので、まずは「鉄の料理人」にお気軽にご相談ください。