バリ取り、バリ抑制、工具の摩耗管理、再研磨・・・切削加工現場で日々発生するさまざまな課題。『他社はどう対処しているのか?』『今のやり方以外にもっとよい解決方法はないのか?』と感じることも多いのではないだろうか。そこで今回、2社の切削加工のプロフェッショナルにオンラインで切削加工現場の課題について語り合っていただいた。ここでは、被削材別の課題、製造現場の安全対策について、第3回目のセッションを振り返りながら、課題解決の勘所を紹介する。
このセッションに参加されたのは、自社機械生産向け部品開発と、一般ユーザー向け販売を行っており、付加価値の高いものづくりを実践されているアイセル株式会社様(以降、アイセルと表記)と、半導体、自動車部品関連品など部品加工を主とした旋盤、マシニング加工で、切削加工技術のエキスパートとしての地位を確立されている株式会社曙製作所様(以降、曙製作所と表記)の2社。2021年9月に開催された第3回目のオンラインセッションでは、被削材別の課題、製造現場の安全対策をテーマに、日頃の課題解決について意見が交わされた。 |
被削材に対して刃持ちが良い工具や加工方法を見つけるには「経験」と「試行錯誤」
司会:次に、被削材に関する課題、困りごとは?
アイセル:例えばSKS3の焼き入れ後(硬さHRC60~63)のタップ加工で、刃持ちが悪く径補正を何度も入れなくてはならないケースは困りました。タップの深さが限られているので長さをカットすることができないです。高硬度用のスレッドミルを数メーカー分試しましたが、加工時間がかかるしやはり摩耗が激しくてダメでしたね。高硬度用のタップが良いなど、現場ですぐに最適な刃物や刃持ちする加工方法が分からない場合は本当に困りますね。刃物の交換回数が増えると即コスト高になりますから。
曙製作所:うちも10年ほど前に航空機部品で15-5ph(析出硬化系ステンレス鋼-SUS630と同等)の熱処理材(HRC40程度)の加工をした時は難しかったです。当時は析出硬化系ステンレスの加工条件がカタログにほとんど載ってなかったこともあり、どの刃物を使っていいのかわかりませんでした。刃物は商社と相談して選定しましたが、加工してみると刃物が持たないので交換回数が増えてしまいました。結局、やりながら加工条件を調整していくしかなかったです。
司会:そういう時は、解決に至るにはやはり経験値が大きいですか?
曙製作所:そうですね。自分の経験上、被削材によってはカタログの切削条件が合わないだろうな、という時があるんです。そういう時は経験がものを言います。例えば、回転数はそのままで送りを半分にするとか、仕上げ加工前の残し代をどれだけ残すか、など経験をもとに調整していきます。自社は時間より精度重視なので、何を重視するかにもよりますし。
アイセル:うちはあまり難しい材料を加工することは少ないですが、新しい材料は『今ある刃物でどう削るか』という思考で加工条件を検討します。同じように結局は最初に推奨切削条件で試しながら、回転数や送りを調整していくしかないですよね。
製造現場の改善は費用面で難易度が高いが、有用性は高い
司会:では最後に、製造現場の安全対策や作業環境改善の課題・困りごとは?
曙製作所:そもそも作業環境の改善は費用がかかるので、難易度は高いと思います。ただ、改善に取り組むことは重要です。
例えば、昔は切削油が油性か水溶性かを気にせず使っていましたが、メーカーから水溶性の切削油を試してみたところ、今までメーカーにどれだけ相談しても解消しなかった機械の不具合が、切削油を変えただけで解決しました。
アイセル:そうですね。うちも同じです。油性は使わず水溶性切削油のみ使っていますが、同じ切削条件でも、切削油を別のメーカーに替えただけで刃持ちが1.5~2倍に改善したので驚きました。切り替えるハードルはありますが、改善に取り組む価値はありますよね。また、オイルミスト発生の抑止対策も気をつけています。恒温室の狭い密閉空間でのマシニングセンター作業でオイルミストが発生してしまうと、設備のフィルター周りの交換、清掃サイクルが早くなってしまいます。コスト高になり、健康被害や床の滑りなど事故リスクも高くなりますから。
司会:なるほど。現場の作業環境改善や切削油の選定は長い目で見るとコスト削減や現場の安全対策に効果があるということですね。今回は貴重なお話を本当にありがとうございました。
セッション参加者
アイセル株式会社:辻田様(設計担当)、望月様(商品開発担当)、山本様(マシニングセンタ担当)
株式会社曙製作所:丸山様(五軸マシニングプログラム設計担当)
会社紹介
アイセル株式会社 | 株式会社曙製作所 |
https://isel.jp/ iDEA + SELL = isel 【大阪本社_御堂筋グランタワー】【大阪本社_内部】【りんくう工場】 |
http://www.akebono-s.co.jp/ 手研ぎバイトによる切削加工技術のエキスパートとしての地位を確立してきた曙製作所。技術レベルを日々高めることで、お客様の信頼にお応えしてきました。曙の次なるステップは、“人”が創りあげてきた技を蓄積・結集し、会社レベルでさらなるスキルアップを図ること。“技”の蓄積を曙全体のチカラ(技)にし、多品種、少ロット、多工程、短納期など、お客さまのあらゆるニーズに対応できる体制を整えています。人が生み出す技と、その技を活かす管理技術、この2つを組み合わせることによって、より良い品質と高い生産性を実現します。曙製作所の目指すもの、それは常にお客さまに100%満足していただくことにほかなりません。 |