「プラレス3四郎」をご存知だろうか?1980年代前半に少年誌に連載され、テレビアニメ化もされた人気マンガ作品。遠隔操作ができるロボットを内蔵したプラモデル、つまり小型の人型ロボットを格闘させる競技会に、中学生の主人公が自作のロボットで出場して戦う。少年マンガの王道を行くような話だった。
30年以上を経て、マンガの世界にあった"遠隔操作ができる二足歩行ロボット"の格闘戦が現実になった。その名はROBO-ONE。ロボットをコントローラーで操作し、2本の脚で動き、パンチやキック、投げ技などを駆使して相手を倒す本格的なロボット格闘競技大会だ。遠隔操縦だけではなく自律による戦いROBO-ONE autoもスタートした。今回、2日間にわたって開催された第32回大会をレポートする。
この記事の目次
約250機のロボットがお台場に集合!白熱した試合で大いに賑わう
体重や重心位置、腕や脚の長さまで。厳しい条件下で開発されたロボットたち
現役エンジニアも多数参加。こだわりの詰まったロボットを紹介!
automo 08(Badge)~自身の格闘技経験をロボットに注入!
Frosty~人間の筋肉の動きをリンク機構で再現!
海外勢の参加が顕著に。グローバル化するROBO-ONE
約250機のロボットがお台場に集合!白熱した試合で大いに賑わう
ROBO-ONE第32回大会は2018年2月24〜25日、東京はお台場にある日本科学未来館ホールにて開かれた。出場者や関係者以外にも、一般の観客も子どもから大人までロボット好きがたくさん集まった。
当日はROBO-ONE以外にも、第17回ROBO-ONE Light(ロボワン・ライト)と第3回ROBO-ONE auto(ロボワン・オート)の大会が同時に開催された。ROBO-ONE Lightは総重量1kg 以下級の大会。総重量が3kg以下のROBO-ONEがヘビー級なら、ROBO-ONE Lightは軽量級といえるだろう。そして今回で3回目となるROBO-ONE autoは試合中コントローラーに一切触れることができない、完全自律動作ロボットによる大会である。
これらのロボットが、トーナメント方式で頂点を目指すのだ。リングでは出場ロボットが次々にパンチやキックを繰り出し、派手なぶつかり合いを繰り返す。時には前方に回転しながら繰り出される捨身技や、バックドロップなどの大技が決まることもある。一つひとつの動きに、あちこちで笑い声や歓声が湧き上がっていた。
体重や重心位置、腕や脚の長さまで。厳しい条件下で開発されたロボットたち
出場ロボットの大半は、設計、製作、プログラミングまですべて自作だ。ただし、「ROBO-ONE」主催団体である一般社団法人二足歩行ロボット協会認定の「公認ロボット」(市販されている)なら、そのままの出場もしくは改造しての出場も可能だが、これら公認ロボットはROBO-ONE Light向けに認定されていることもあり、ヘビー級であるROBO-ONEは必然的に自作ロボットが多くなる。
ロボットを自作するにあたっては各部に厳しい規定がある。たとえば、10mm以上足を上げて歩行可能であること。足裏の前後の長さは、脚の長さの50%以下かつ最大14cm以下であること、などかなり細かい。重心位置にも規定がある。ダウンを取られにくいようにと、重心位置を必要以上に機体の下に配置することは許されていない。非常に厳しい既定をクリアした機体だけが出場できるのだ。
現役エンジニアも多数参加。こだわりの詰まったロボットを紹介!
この大会の特徴のひとつは、参加者の幅広さだ。工業系の学生はもちろん、社会人もいる。実は製造業の企業で働く現役エンジニアの参加も多い。ここでは、大会のメインカテゴリROBO-ONEに出場した現役エンジニアによる2体のロボットを紹介したい。
automo 08(Badge)~自身の格闘技経験をロボットに注入!
ロボティクス関連のエンジニアとして活躍するholypong氏が開発したautomo 08(Badge)。注目すべきはholypong氏が空手や八極拳などの格闘技の経験者である点だ。
格闘技の動きをロボットでリアルに再現するため、さまざまな工夫が施されている。まずはautomo 08(Badge)の動きを動画で見ていただきたい。
胸の前で両手を合わせる構えをとり、続いて足を開きながら相手に向かって深く潜り込むように大きく一歩踏み出して、そのまま両手を上方に勢いよく突き上げる。…いずれも格闘技の動きをロボットが忠実に行っている。この動きを実現するために、肩を前後方向に動かす特徴的なサーボ配置にしたおかげで腕を前方で合わせる動作が可能となった。
この柔軟な股関節によって、人間が一歩足を踏み出し手を前に突き出す動作を行う際に生じる「後ろ足を横に向けて蹴り出す動作」までをも見事に再現している。次の動画を見ていただきたい。
単純に、相手をダウンさせるためだけであれば、無駄な動作をなくし、腕を前に上げながら前方へ倒れ込むような動作をした方がはやい。しかしholypong氏はそういった方針をとらない。「ROBO-ONEで勝ちあがるような機体の中には、人型よりも腰から腕が生えているようなモンスター型に近いシルエットのものが増えてきているように感じています。automo 08(Badge)のように万人から人型と認知されるシルエットの機体で、格闘家と同じような動きができるよう洗練させてモンスター型に勝つことにロマンを感じているんです」と熱く語っていた。
Frosty~人間の筋肉の動きをリンク機構で再現!
続いて紹介する「Frosty」は、ロボットの研究開発に従事しているFrostyDesign氏が手掛けるロボットだ。
このロボットで注目したいのは、ユニークな腕と脚の構造である。まずは、脚の上下動をみていただきたい。
特筆するべきは、脚の付け根に近いサーボ1個とばねでなめらかな脚の上下動を実現した点だ。これを可能にしたのは特徴的なリンク機構にある。そのポイントは「人間の脚の構造そそのまま模倣するのではなく、筋肉の動きと機能をこのリンク機構で実現したところ」という。
続いて攻撃を行う腕の機構を見てみよう。
通常時の腕は折りたたまれているのが特徴だ。攻撃時には、爪状のパーツが開いて伸びると共に、その動作で腕全体が伸びる。さらに爪でつかむときには爪の長さで腕の長さ規定に触れないよう腕が少し短くなる。これを歯車とリンク機構を用いて実現しているのだ。
このように腕・脚などのロボットの至る所に細やかで洗練された技術が垣間見える機体であった。
海外勢の参加が顕著に。グローバル化するROBO-ONE
海外からの出場者は年々増加している。今大会では、ヘビー級である“ROBO-ONE”にエントリーした4分の1、"ROBO-ONE Light"ではなんと3分の1が海外勢だった。
なかでも韓国からの出場者がもっとも多い。韓国ではロボットを学ぶ環境が充実しているのだ。現に今大会でも"ROBO-ONE Light"と"ROBO-ONE auto"では韓国チームの機体が優勝している。彼らに話を聞くと「動画サイトなどで日本のロボットを研究し対策を考えている」という。今後優勝を目指すには自身のロボットの更なる改善に加え、他の参加者のロボットの研究も重要になりそうだ。
(2018年2月25日取材)