微生物の代謝作用による生成物が間接的原因となって起こる腐食を「微生物腐食」と呼んでいます。微生物が直接金属を栄養源として侵食するわけではなく、代謝生成物が、電池を形成しアノード反応やカソード反応を起したり、微生物の繁殖による菌そのものが酸素あるいはイオンの濃淡電池を形成して腐蝕の原因になるといわれています。
腐食の原因となる微生物は、主としてバクテリアでありますが、カビであることもあります。例として、鉄バクテリアによる鋼の腐食、硫酸塩還元バクテリアによる鋼および銅の腐食があります。また、航空機燃料中のカビおよびバクテリアによるアルミニウム合金の腐食などが知られています。大別すると次のとおりです。
(1)好気性バクテリアによる腐食
菌の成長繁殖に酸素を必要とするもので、鉄バクテリアと硫黄バクテリアが有名です。鉄バクテリアは、水中の溶存酸素により2価の鉄イオン(Fe2+)を3価の鉄イオン(Fe3+)に酸化し、その時発生するエネルギーを取り入れて成長します。鉄製の水道管に「さびこぶ」を形成して、管を閉塞させ問題になりました。
硫黄バクテリアは、硫黄の不完全酸化物を酸化することによって得られるエネルギーを利用して繁殖するバクテリアで、最終的には硫酸が生成されますので、pH2〜4と酸性の強い領域でも生存可能です。
(2)嫌気性バクテリアによる腐食
繁殖に酸素を必要としないバクテリアで、酸素があると生存できません。溶存酸素の少ない土中で発見されました。硫酸塩還元バクテリア、硝酸塩還元バクテリア、メタン発酵バクテリアが知られています。
硫酸塩還元バクテリアは、硫酸塩をH2Sにまで還元します。さらにH2SがFeを酸化してFeSをつくります。都会の汚染水は、有機物の腐敗のために、溶存酸素は欠乏し、多量の硫酸塩を含むので、硫酸塩バクテリアの格好の住み家であります。昔の汚染された隅田川では夏季に悪臭が発生し、H2Sによる銅合金製品の黒変が起きて話題になりました。このバクテリアによる腐食は、AL、Zn、Pbやそれらの合金やステンレス鋼では認められず、Cuでわずかに認められますが、鉄鋼がもっとも著しいといいます。
硝酸塩還元バクテリアは、硝酸塩を還元してアンモニアを発生させます。メタン発酵バクテリアは、FeとCO2から、Fe(OH)2とCH4(メタンガス)をつくります。
(3)アルミニウム合金の微生物腐食
ジェット機燃料に混在する水や、それに溶解している無機塩類を栄養源とする微生物で、ジェット機の翼などを腐食し、問題になっています。
微生物腐食の防止対策としては、微生物が生存できない環境をつくることが大切で、好気性のものには空気を遮断し、嫌気性のものには通気などが行われています。