プレス加工時のカス上がりは、製品不良や金型の損傷等の原因となり、大きな問題となっています。特に薄板の小穴抜きやダイとの拘束力が少ないサイドカットがカス上がりを起こし易いと言われています。
カス上がりの要因
カス上がりの要因は、バキュームによる吸着、パンチ切刃への吸着、油による吸着、パンチの磁力、ダイの圧縮空気による押上げ等と言われています。
また、一般的なクリアランスでは、抜きカス寸法のほうがダイの穴径よりも小さくなるためにカス上がりが発生し易くなります。
一般的なカス上がり対策
カス上がりを防止するためには、
パンチへの吸着力<ダイとの摩擦力+抜きカス重量
とすれば良いので、
1)パンチ側の対策
・・・・・・刃先先端を加工(シャー角、突起)、エアブロー、ジェクタパンチの使用等
2)ダイ側の対策
・・・・・・バキュームによる吸引、刃先内面の面粗度を粗く、切刃の微小面取等
3)その他の対策
・・・・・・輪郭形状の変更、クリアランスを小さく、パンチとダイの食込み深さを大きくする等
さまざまな方法が採用されてきました。
一般的には、バキュームによる吸引方式が多く採用されていますが、これは型設計の時点からその構造を考慮したり、取付け作業・吸引力のバラツキなどの調整が手間であり、ジェクタパンチは再研磨の際のジェクタピンの処理、刃先内面粗度の変更にしても再研磨後の再処理が面倒となります。ミスミのカス上がり対策ダイは特殊な溝加工を施すことで、これらの問題を解決しました。
図1 カス上がり対策ダイの溝形状
カス上がり対策ダイの原理と特長
1)カス上がり対策ダイの原理
ダイの内面に2本以上の傾斜溝を中心からみて逆方向に加工しています。打抜き工程初期に抜きカスはダイの傾斜溝に応じた小さな突起が形成されます。パンチの下降により更に下面に押し込まれると突起部はダイの側面から圧縮(しごき作用)され摩擦力が増大し、カス上がりを防止します。また、傾斜溝を螺旋状でなく逆向きに加工してあるので、パンチの上昇に伴い回転してカス上がりをすることはありません。
2)刃先形状及びダイの種類
カス上がりが発生し易い丸及び変形に対応し、ダイとの拘束力が少ない切欠き形状(サイドカット)にもカス上がり対策ダイは使用可能で効果があります。
3)取扱いが簡単で、トータルコストが削減
カス上がり対策ダイを型に組込むだけで効果を発揮するため、既存の金型にも使用可能であり、再研磨時の手間及び再研磨後の再処理も不要です。コストは従来のダイよりも若干高くなりますが、通常のパンチとジェクタパンチとの価格差と同程度のコストであり、その効果とメンテナンスコストを考慮すれば、非常に付加価値が高いと言えます。
切口面形状の影響
カス上がり対策ダイは、ダイの内面に傾斜溝(0.005mm~0.1mm程度)を施すことで効果を発揮させています。その結果、被加工材の特殊溝加工部に対応する部分については局部的にクリアランスが大きくなるため、図2のように切口断面に若干の変化があります。すなわち、溝加工を施さない部分と比較してダレ(R)、破断面長さ(H)、破断面寸法差(C)、かえりの高さ(B)が大きくなり、せん断面(S)が少なくなります。したがって、シェービング加工等で多くのせん断面が必要で、破断面寸法差が問題となる場合にはご注意願います。
ダレ | R1<R2 |
せん断面長さ | S1>S2 |
破断面長さ | H1<H2 |
破断面寸法差 | C1<C2 |
かえりの高さ | B1<B2 |
図2 カス上がり対策ダイによる切り口面形状
適用の範囲
1.穴径:φ0.8mm~φ48mm
小さい穴径ほどカス上がりが生じ易いと言われていますが、最小穴径φ0.8mmから対応が可能です。(φ1.0mm未満は精密級のみ対応)
2.被加工材質:引張強度1177N/mm2(120kgf/mm2)まで対応可能
硬質で延性が少ないほどカス上がりが生じ易いと言われています。カス上がり対策ダイは多様化した被加工材のほとんどに対応する引張強度1177N/mm2(120kgf/mm2)まで可能です。
引張強度1177N/mm2(120kgf/mm2)を越える被加工材の場合には効果が発揮されないことがあります。
3.被加工材の厚さ:0.1mmから対応
油やバキュームによる吸着等により、板厚が薄い物ほどカス上がりが生じ易く、トラブルの原因となっています。カス上がり対策ダイは板厚0.1mmから対応可能です。(板厚0.15mm未満は精密級のみ対応)
4.ダイの材質:SKD11相当、SKH51、粉末ハイス(HAP40)、超硬V40、超微粒子超硬から選択可能
注意事項
- 最良の効果と製品への影響が最小になるような特殊溝加工をおこなっておりますが、カス上がりは諸条件によりその効果にバラツキが生じる場合があります。
- パンチとダイの食込み量:1mm程度
カス上がり対策ダイの機能(しごき作用によりダイと摩擦力を増大させる。)を十分に発揮させるためには1mm程度必要となるので、型設計時及び再研磨時にはご注意願います。 - 再研磨量(リグラインド):1mm程度(BC使用時はBC-1mmまで)
カス上がり対策ダイの効果を十分に出すためには、再研削量は1mm程度までで使用することが望ましい。(効果を発揮させるためには刃先ストレート部が最低1mmは必要です。)
注文方法
カス上がり対策の最良の効果と製品への影響が最小になるような傾斜溝を加工するために、通常のダイ寸法の他に被加工材の板厚及びクリアランス(片側)の値が必要となります。
- 被加工材の板厚:0.15mm以上(指定0.01mm単位)
〃 精密級:0.10mm以上(指定0.01mm単位) - クリアランス:0.01mm以上(指定0.005mm単位)
〃 精密級:0.005mm以上 (指定0.001mm単位)