工場などの製造現場では、ネジやナット、工具などのほか、OA用紙、インクなどの消耗品といった、さまざまな間接材が使用されています。これらの間接材を細かく管理し、在庫を適宜補充するには、手間や時間、コストがかかります。
こうした課題に対応するため、今海外では、間接材用の自動販売機(以下、間接材用自販機)を製造現場に設置し、必要なタイミングで必要な量だけ購入してもらうというビジネスモデルが普及しはじめています。
今回、北米大手企業のFastenal Company(ファスナル社)、IVM Ltd.(IVM社)などの事例を交え、海外の製造現場における間接材供給動向についてレポートします。
北米の間接材用自販機市場
北米ではさまざまな間接材を、必要なタイミングでその都度購入できる間接材用自販機を設置する製造現場が増えてきています。
このような自販機本体(筐体)の全世界の市場規模は2023年に約30億米ドル(約4,225億円、2023年末レート)を越え、今後も年10%近い成長を示すと予想されています。そのうち、北米市場は約35%を占めるなど、世界最大規模となっています。
間接材用自販機を利用する業種は、製造業はもちろん、航空関連、ヘルスケアなどさまざまです。今日の間接材用自販機の需要増の背景には、ものづくり企業がJIT(ジャストインタイム)生産を追究していることが挙げられます。在庫を極力減らすとともに、予期しない在庫不足とそれに伴うリードタイムの延長を防ぎたいというものづくり企業のニーズに、間接材用自販機がマッチした結果といえます。
北米の代表的プレイヤー
前述のとおり、アメリカ、カナダなどからなる北米市場は、間接材用自販機の世界最大市場です。多くのプレイヤーが参入しているだけでなく、間接材用自販機の発祥地でもあります。ここでは、北米における間接材用自販機の代表的プレイヤー3社を紹介します。
市場を切り開いたリーディングカンパニー・ファスナル社
ファスナル社は、1967年にミネソタ州で創業した企業で、当初は建設現場や製造業で使用されるネジやナットを主力商品とする企業でした。しかし、こうしたサプライ品(建設用ファスナー)や工具・器具・備品などの間接材は、重量が原因で輸送費が高くなる一方で、単価自体は低いという課題がありました。
この課題を解決するため、ファスナル社が開発したのが間接材用自販機です。同社のクライアント企業の工場に、工場内店舗として自販機を設置、あらかじめ補充しておいた間接材を必要なときに必要な分だけ購入してもらい、自販機内の商品は一定期間ごとにまとめて補充するシステムです。
このシステムは間接材供給における輸送コストの問題を解決するだけではなく、クライアント企業にとっては余計な在庫を抱えなくてすむというコストメリットもあります。ファスナル社はクライアント企業にとってもメリットの大きなソリューションを提供したことで、新たな間接材市場を切り開くことに成功しました。
ファスナル社のアニュアルレポートによると、最近10年の売上高は工場内店舗数とともに右肩上がりに伸び、2023会計年度には売上高が約約7億3,470万米ドル(約1,034億円、2023年末レート)。工場内店舗数は1,822に達しました。
同社によると、2023年には間接材用自販機の契約台数は、工場内店舗に限定せず合計すると、約11万1,800台に及んでいます。20種類ある自販機ごとの月の目標スループット(※)は1,000米ドル未満から3,000米ドル以上と幅は広いものの、主力製品である「FAST 5000」の月の目標収益は2,000米ドル程度だといいます。
※売上から直接の材料費を差し引いたもの
ファスナル社の主な自販機
ファスナル社が主力製品と位置づけているのは、次の3種類の自販機です。
【コイル式自販機】
コイル型のバネで商品を挟む方式の自販機で、手袋、安全メガネ、切削工具、研磨剤、テープ、接着剤、電池といった一般的かつ小型の副資材を取り扱えます。
副資材を使いたい従業員は、自販機付属のカードリーダーにIDカードをかざすと認証され、必要な商品を取り出すことができます。シンプルな構造であるにもかかわらず、信頼性が高いため、多くの製造現場で導入されている自販機です。
【センサー型自販機】
コイル式が商品の制御を重視しているのに対して、処理時間の素早さを重視しているのがセンサー型です。センサー型は、バルク品、金具、切断工具といった消耗品のみを取り扱います。
従業員が端末からキャビネット、ロッカー、引き出しなどのロックを解除して商品を取り出すと、センサーが持ち出した数を自動的に検出し、従業員のIDとともに記録・見える化する仕組みとなっています。
【ロッカー式自販機】
ロッカー式は、大型消耗品の販売に適した自販機ですが、それだけではなく工具、スキャナ、タブレットといった定期的に使う備品の保管・貸出・返却のプロセスを自動化できるなど、多目的な利用が可能です。
AutoCrib社
AutoCrib社は1994年に創業と、25年以上の歴史をもつ老舗の間接材用自販機の企業です。同社の主力製品がカルーセル(回転)型自販機「RoboCrib」で、カスタマイズ性を売りに、MRO、PPE(個人用保護具)などを扱っています。とくに、製造業や航空宇宙産業、自動車産業などの主要取引先に対して、高価な工具を安全に保管・管理することを謳っています。
同社の強みは、優れたユーザーインターフェースをもつ在庫管理ソフトウェアです。IDカードをスキャンするだけで、現金取引の必要なく、商品の受け取りや返却が可能。利用状況は自動で記録されるほか、商品の再注文も可能です。
IVM社
IVM社は、全米50州、世界38ヵ国、計200社以上の顧客に自販機を供給する企業です。1993年に、従業員のIDカードを自販機付属のカードリーダーで読み込ませることで、商品の保管・配布を行うシステムを開発しました。
IVM社の主力製品は、ロッカー型の自販機であり、航空関連、自動車、ヘルスケア以外にも金融、物流など、幅広い業界に自販機を提供しています。
興味深いのは教育関連にも提供している点であり、実験器具や教科書などの保管・配布に自販機を活用しています。利用状況をもとに自動的に再発注する機能も搭載するなど、教育現場の負担軽減とIT化を進めています。
同社のこうした取り組みは、オウンドメディアを通じて積極的に情報発信されています。
間接材用自販機のメリットと市場の課題
間接材用自販機を取り扱う北米企業の事業内容や強みを確認してきましたが、こうした自販機には多くのメリットがあり、そして課題も残されています。
間接材用自販機のメリット
間接材用自販機のメリットは、製造現場に隣接した場所に設置することで、自販機から間接材を素早く取り出せる点です。保管場所から実際に使う場所まで備品を運搬する手続きや時間が短縮されます。
自販機のシステム自体にもメリットがあります。データ分析や商品のトラッキングにより自販機内の商品の不足分が明確化され、必要なときに必要な分だけ調達し、在庫を極力減らすことが可能となります。在庫管理の効率化のほか、輸送費の削減、リードタイム短縮など、ムダを省けます。
また、航空機、自動車、エレクトロニクス、ヘルスケア、物流、建設現場など、幅広い業種に対応可能なのもメリットだといえます。業種ごとに必要な間接材は異なるものの、自販機のカスタマイズで対処できます。
さらに多国籍企業の場合、間接材調達の工程を標準化できることもメリットといえるでしょう。オペレーションの一貫性が確保された結果、ロジスティクスが簡素化し、サプライチェーンの最適化を図れます。
間接材用自販機市場の課題
間接材用自販機の課題として、自販機の導入にコストがかかることが挙げられます。ただし、初期投資は必要であるものの、長期的にはコストを下げることができます。
また、企業ごとに在庫管理システムは異なるため、各社の在庫管理システムと間接材用自販機とのシステム連携が難しいケースもあります。
さらに日本市場では、間接材用自販機の知名度が低いことも課題の一つだといえます。製造業といった間接材用自販機のメリットを享受できる業界に対し、その機能や利点を浸透させていくことが重要です。
まとめ
欧米ではすでに、工場で使用される間接材を自販機経由で供給する方法が普及しています。また、中国を中心としてインド、東南アジアなど、アジアでも間接材用自販機の市場が急成長しています。背景には多国籍企業の存在感の高まりがあります。これら企業がサプライチェーン最適化のために、北米以外の拠点でも間接材用自販機の利用を活発化させていると見られています。
日本ではまだその認知度は高くありませんが、知名度の向上とともに、今後は普及していくことが期待されます。