バリ取り、バリ抑制、工具の摩耗管理、再研磨・・・切削加工現場で日々発生するさまざまな課題。『他社はどう対処しているのか?』『今のやり方以外にもっとよい解決方法はないのか?』と感じることも多いのではないだろうか。そこで今回、2社の切削加工のプロフェッショナルにオンラインで切削加工現場の課題について語り合っていただいた。ここでは、バリの除去や工具の摩耗管理について、各社の対応に共通点・差異が如実に現れた第1回目のセッションを振り返りながら、課題解決の勘所を紹介する。
このセッションに参加されたのは、自社機械生産向け部品開発と、一般ユーザー向け販売を行っており、付加価値の高いものづくりを実践されているアイセル株式会社様(以降、アイセルと表記)と、半導体、自動車部品関連品など部品加工を主とした旋盤、マシニング加工で、切削加工技術のエキスパートとしての地位を確立されている株式会社曙製作所様(以降、曙製作所と表記)の2社。2021年9月に開催された第1回目のオンラインセッションでは、加工時のキズ・バリ、工具の寿命耐久をテーマに日頃の課題解決について意見が交わされた。 |
重要なのはバリの除去ではなく、「いかに前工程でバリを抑えるか」
司会:今回はアイセル、曙製作所の皆さまにご協力いただき、ざっくばらんに現場のリアルな課題について本音で語ってもらいます。早速ですが、加工時のキズ・バリに関する課題や困りごとは?
アイセル:旋盤加工の後マシニング加工時、R形状×R形状で重なる部分のバリ取りが手作業で困っています。被削材はSUJ、SUS440ですが、三次元形状は取るのが難しく、面取りカッターでは取れないんです。裏面(筒状の内径部分)は面取り機で手作業で取り除いています。理想は工具で対応できて手作業が不要になることですが、球形ボール、裏座ぐりカッターなど試してもなかなかこれぞという工具がなく・・・。
写真1:バリ取り前後の比較(左:バリ取り前・右:バリ取り後)
司会:曙製作所さんはいかがですか?
曙製作所:そうですね。アイセルさんのように製品が大きいと工具で取るのは難しいでしょうね。
そもそもバリ取りをプログラムで作るのは難しいし時間もかかりますよね。なかなかプラスαの所に手間かけられないのが本音です。製作数量が多いと機械で組むしかないですが、数量が少なければ手作業でやってしまう方がいい。要はコストとのバランスの問題ですよね。正直、バリの除去ではなく『いかに前工程でバリを抑えるか』が重要だと思います。
司会:いわゆる(1)荒加工、(2)中仕上げ加工、(3)仕上げ加工といった加工工程のうち、中仕上げがポイントになると?
曙製作所:はい。前加工で発生したバリが大き過ぎると、工具によってはバリが取れないですよね。つまりリーマ通し(リーマ仕上げ)で高精度・表面粗さ良好な面に仕上げるといったことで、バリをいかに小さく抑えられるかが重要だと思います。小さければ工具で取れますから。
工具の摩耗管理の大切を実感。校正と日常点検の併用が肝
司会:次に、工具の寿命・耐久に関する課題・困りごとは?
アイセル:タップの寿命は判断しづらいですね。(SUJ,SUSに対して)交換タイミングを計るのが難しい。他工程へ影響する程ではないですが、地味にストレスです。加工していて変な音がするとか、加工時間で判断するとか・・・タップの摩耗状況の見極め方は難しいと感じます。
曙製作所:そうですね。うちは工具の摩耗管理については校正以外に日常点検もしています。摩耗点検ゲージによる日常点検は毎日やっています。すぐゲージが減ってしまうのは困りますが。
アイセル:なるほど。うちは工具の摩耗状況をルーペで確認して、加工した形状はゲージで確認しています。特に、たまにしか使わないタップは使用前に確認しないと、加工後になんとかするのは大変なので、摩耗管理の大切さは実感しています。
司会:工具の再研磨はしますか?
曙製作所:再研磨はほぼしないですね。新品をバキバキになるまで使って、新品交換しますよ。そもそも工具交換自体なるべくしたくないので。唯一再研磨やっているのは超硬ドリルかな。(特注工具で研磨屋を使うことはありますが)再研磨は径が変わってしまい、径補正をプログラムで対応するのが面倒ですから。
アイセル:そうですね。うちもエンドミルはほぼ使い捨てです。ラフィングはほぼ使っていないです。ドリルの場合は再研磨できますが、エンドミルの場合は側刃を使う。最近の工具はビビり防止で太ピッチの特殊なものが出てきているので、再研磨しづらいんじゃないかと思います。
最近はコーディングで寿命を長持ちさせている工具もありますよね。再研磨したらコーディングがなくなりますが、再コーディングまでするのか?というと・・・そういうことを考えると再研磨はなかなかしないのが現状です。
司会:なるほど。工具の摩耗管理を適切にすることが長持ちのポイントですが、誰でも簡単に管理しやすい仕組み・基準づくりはまだまだ課題がありそうですね。
セッション参加者
アイセル株式会社:辻田様(設計担当)、望月様(商品開発担当)、山本様(マシニングセンタ担当)
株式会社曙製作所:丸山様(五軸マシニングプログラム設計担当)
第2回目へ続く
会社紹介
アイセル株式会社 | 株式会社曙製作所 |
https://isel.jp/ iDEA + SELL = isel 【大阪本社_御堂筋グランタワー】【大阪本社_内部】【りんくう工場】 |
http://www.akebono-s.co.jp/ 手研ぎバイトによる切削加工技術のエキスパートとしての地位を確立してきた曙製作所。技術レベルを日々高めることで、お客様の信頼にお応えしてきました。曙の次なるステップは、“人”が創りあげてきた技を蓄積・結集し、会社レベルでさらなるスキルアップを図ること。“技”の蓄積を曙全体のチカラ(技)にし、多品種、少ロット、多工程、短納期など、お客さまのあらゆるニーズに対応できる体制を整えています。人が生み出す技と、その技を活かす管理技術、この2つを組み合わせることによって、より良い品質と高い生産性を実現します。曙製作所の目指すもの、それは常にお客さまに100%満足していただくことにほかなりません。 |