一般的に難削材といわれるステンレス鋼。ここではステンレス鋼切削時の「加工硬化」の注意点と工具による防止事例を紹介する。
ステンレス鋼切削時の「加工硬化」に要注意!後工程の工具寿命に悪影響を及ぼす
ステンレス鋼は一般的に難削材と言われている。(ステンレス鋼の特性についてはこちら)
表1 ステンレス鋼切削時に発生しやすいトラブル
ステンレス鋼の特長 | 発生しやすいトラブル |
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加工硬化しやすい | 後工程(リーマ・タップ)のトラブル、工具寿命が短い |
溶着しやすい | 工具の欠け、折損の発生 |
切りくずが伸びやすい | 工具の欠け、折損の発生 |
熱伝導率が低い | 工具交換の頻度が高い(切削時に発生する熱(800℃~1200℃程度)が工具刃先に集中するため、工具摩耗が急速に進み工具寿命が短くなる) |
特に、下穴加工において加工硬化を起こした場合、タップやリーマなどの後工程の工具寿命に悪影響を及ぼすため、注意が必要だ。
そもそも加工硬化とは、「一度塑性変形させて、その後同じ向きの力を加えると、降伏点が上昇してつぎの塑性変形を起こすのに必要な力(抵抗=変形抵抗)が増すこと」。要は、材料を加工していくと硬くなり、うまく加工できなくなるということだ。(加工硬化についてはこちら)
切削の場合、刃物と被削材の「擦り」と言う現象がこの加工硬化を生み出す要因である。特に切削速度の速い超硬工具では、適切でない条件で加工したり、切削点での冷却性が不足するとあっと言う間に表面が硬化してしまう。加工硬化しやすい材質はSUS、耐熱合金、高炭素鋼、合金鋼などがある。ステンレス鋼の中でも、特にSUS304は加工硬化を起こしやすい性質を持っている。加工硬化の防止には、最適な刃物や加工条件の設定、最適なクーラントの設定などが重要である。
表1 特に加工しにくいと言われるステンレス鋼の種類
被削材例 | 種類 | 性質、トラブル例 |
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SUS304 | オーステナイト系 |
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SUS329 | 二相系(オーステナイト系とフェライト系の2種類の性質を持つ) |
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SUS630(17-4PH15-5PHなど) SUS631(17-7PH) |
析出硬化系 |
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解決事例―切れ味重視の刃先形状の工具で、加工硬化を防ぐ
加工硬化を防止しステンレス鋼切削の高能率化、工具の寿命を伸ばすことができれば、大きなコスト削減効果が得られるだろう。解決方法の1つが、例えばADO-SUSのように切れ味重視の刃先形状の工具を使うことだ。切れ味が良いと、被削材との擦りによる発熱量を軽減し、加工硬化を防ぐことができるという。
工具の使い方にもポイントがある(下記はADO-SUSの例)。こちらを参考に、工具の特性を最大限活かせる使い方をして、効果を最大化するとよい。
表2 ADO-SUS使用時のポイント
1.ステップ加工は最小限にする |
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2.面取りはドリル加工の後にする |
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このように、ステンレス鋼の加工硬化を防ぐ工具を上手く使えば、難しい被削材でも、工具寿命を伸ばしつつ高能率で安定した加工の実現が見込めるという事例だ。