無給油ブッシュとは「無給油」あるいは「給油回数を少なくできる」すべり軸受である。無給油ブッシュの特徴と歴史を絡めて紹介する。
無給油ブッシュとは?
ブッシュとは、通常、部品同士の隙間を埋める部品のことを言う。狭い意味でブッシュは、軸受を指している。軸受はベアリングとも呼ばれていて、回転する軸を支える部品である。回転する軸を受ける部分には、必ず摩擦が発生する。この摩擦の軽減と、回転する軸を正しい位置に保つために軸受が必要である。
無給油ブッシュとは、無給油つまり潤滑油を注さなくても動作する軸受のことを言う。オイルレスベアリングと呼ばれることもある。
無給油ブッシュの歴史
18世紀の末にフランスの物理学者クーロン(1736-1806年)が見出した法線方向の力に比例する摩擦力の法則は、200年経った今でも変わっていない。ムーア著の「超精密機械の基礎」には、「幾何形状(平面)」「長さの基準」「円周分割」「真円度(円筒)」の4つの技術が基本であると記載されている。
この「摩擦力」と「円筒」をキーワードとした機械要素のすべり軸受は、馬車などの輸送機器の主軸に使用されて以来、姿かたちを変えて現在においても機械の主要な部品として、ガソリンエンジンなどに使用されている。
20世紀初頭に焼結金属を用い、その多孔質な空間に油を含浸させたすべり軸受を、使用者による潤滑油の注油を必要としないユーザーフレンドリーな製品として開発したものが無給油ブッシュの始まりである。この無給油ブッシュを支える技術は下記の2点になる。
表1. 無給油ブッシュを支える技術*1
項目 | 内容 |
---|---|
潤滑 | 個体潤滑剤であるグラファイト、二硫化モリブデンなどを含侵した金属材料と自己潤滑性のある樹脂材料の無給油を実現する材料技術 |
形状 | 軸と穴のはめあいによる滑り構造を実現する高精度穴形状の製造・加工技術 |
注釈
- *1
- 参考文献:超精密機械の基礎 ウェイン R.ムーア/著 長岡敏郎/〔ほか〕訳 国際工機
無給油ブッシュが誕生したのは、グリースや潤滑油の供給をしなくても摩擦力を低減することができる潤滑技術と、高精度の真円を製造できる加工技術が発達したからである。
無給油ブッシュの特徴
無給油ブッシュは軸受本体に潤滑油を含浸、または個体潤滑剤が埋め込まれている為、「無給油で使用」あるいは「給油回数を少なくできる」構造を有したすべり軸受である。無給油ブッシュの特徴は大きく下記の3点にまとめられる。
表2. 無給油ブッシュの特徴
特徴 | 内容 |
---|---|
給油が不要 | 自己潤滑性のある材料の使用により、摩擦面に潤滑剤の供給が不要なメンテナンスフリーになる。 但し軸受の寿命増加・摩擦係数の低減を狙って、適宜注油を行う無給油ブッシュと称する軸受もあるが、基本的にはドライな無給油の状態で使用が可能である。 |
回転と直進運動 同時実現可能 |
軸と穴のはめあい構造により、軸方向の直線運動と軸回りの回転運動を同時に実現可能である。 尚且つ必要最小限となる空間によりコンパクトな形で、目的の機能を実現できる。 |
リーズナブルな コスト |
機械要素を構成する部品が、軸とブッシュの2部品と部品点数が少なく、尚且つ潤滑材料は大量生産が可能な金属材なのでリーズナブルなコストになる。 また潤滑剤不要によるメンテナンス費用が削減できる為、投資費用も工数も削減可能である。 |
無給油ブッシュと他のすべり軸受との比較
すべり軸受にはいくつかの種類がある。無給油ブッシュもすべり軸受のひとつの種類だが、その他の滑り軸受や転がり軸受との特徴の違いを比較してまとめたものを表3に示す。
表3.無給油ブッシュと他のすべり軸受との比較
比較項目 | 無給油ブッシュ | 給油ブッシュ | 静圧空気軸受 | 動圧油軸受 | 磁気浮上軸受 | 転がり軸受 |
---|---|---|---|---|---|---|
給油 | 不要 | 要 | 不要 | 要 | 不要 | 要 |
負荷荷重 | 軸受面積に依存 | 軸受面積に依存 | 軸受面積に依存 | 軸受面積に依存 | 低 | 少 |
摩擦 | 大 | 少 | 極少 | 少 | 極少 | 少 |
衝撃性 | 強い | 強い | 弱い | 弱い | 弱い | 弱い |
耐熱性 | 強い | 強い | 弱い | 弱い | 弱い | 弱い |
高速運動 | 弱い | 弱い | 強い | 強い | 強い | 強い |
低速運動 | 強い | 強い | 強い | 弱い | 強い | 強い |
取付スペース | 極少 | 少 | 大 | 少 | 大 | 少 |
部品点数 | 少 | 少 | 大 | 大 | 大 | 中 |
信頼性 | 高 | 高 | 中 | 中 | 中 | 中 |
回転精度 | 低 | 低 | 高 | 高 | 高 | 中 |
回転・直進動作 | 1軸で実現 | 1軸で実現 | 2軸で実現 | 不可 | 不可 | 2軸で実現 |
コスト | 安価 | 安価 | 高価 | 高価 | 高価 | 安価 |
表3から分かるように、他の軸受よりも信頼性があり、衝撃、耐熱性もあるのに安価で利用できる。部品点数も少なく、省スペースで小型化ができるので、小さなものでも利用が可能である。高速での使用には向いていないが、低速で回転精度が必要ないものに最適である。
無給油ブッシュには、樹脂製と金属製の2種類がある。金属製よりも樹脂製の方が腐食に強いため薬品の中でも利用でき、グリースや油が不要なため宇宙、水中での使用が可能になる。
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