① 日・米・独それぞれの先進国型ものづくり産業の動向
日本企業と同じくハードウエアやコンポーネントに強みを持つ中堅企業の存在が特徴的。価格競争になりにくい領域に挑戦することで、付加価値で勝負できるマーケット・ポジションを確保している。日本企業よりもモジュール化やシステム指向が強く、グローバル化にも積極的でグローバル競争力で世界2位の位置にあり、フォルクスワーゲンやボッシュのモジュール戦略を利用したオープン&クローズ戦略(※注記参照)でアジアの新興国市場を攻略しつつある。 (※参考文献1)
グローバル企業はいち早くオープン&クローズ戦略を展開し、ものづくりのハードウエアやコンポーネントの製造部分は人件費の安いアジア圏に任せ、バリューチェーンの中で企画・デザインの最上流のポジションで付加価値をとるビジネス・エコシステム(国際分業体制)を戦略的に構築している。グローバル競争力は世界3位。 (※参考文献2)
ハードウエア&コンポーネントに強みを発揮するが、デジタル化の進展によって海外への技術伝授のスピードが速まるにつれ新興国が急速にキャッチアップしつつある。また、ソフトウエアやシステム化への対応の遅れで新興国との価格競争にさらされている。 (※参考文献3)
他方、円安と石油価格の安定化傾向により、高価格帯域のものづくりの国内回帰の動きも見える。更に詳しい解説は次号第2回で行います。
【注記】 オープン&クローズ戦略
技術などを秘匿、または特許権などの独占的排他権を実施するクローズ・モデルの知財戦略に加え、他社に公開またはライセンスを行うオープン・モデルの知財戦略を取り入れた自社利益拡大のための戦略。
図1:日米独のものづくり産業の現状の比較
② インダストリー4.0 を読み解く
インダストリー4.0の狙い
I 4.0の狙いは、ドイツ製造業の国際競争力の強化。1章で述べたドイツのものづくり産業の強みを活かし、ドイツ国内の各企業に対して先進的生産システムの「標準化」を浸透させつつ、海外に対しては「I 4.0規格」を浸透させることで、規格準拠の製造装置や機械の輸出力強化を獲得する狙いがあり、ドイツが得意な「標準化戦略」です。過去の事例では、FA業界の「標準化戦略」の成果としてPLCプログラミング言語の国際標準IEC61131-3(PLCopen)などがあります。 (※参考文献4)
インダストリー4.0の概要
a) 産業革命の歴史からの区分
I 4.0は「第4次産業革命」の解釈で解説され、それぞれ、次の変革期を指しています。
- ・第1次産業革命(18世紀後期~)
- 石炭エネルギー/水蒸気を用いて蒸気機関を本格利用した産業形態が英国の繊維産業で誕生
- ・第2次産業革命(19世紀後期~)
- 石油エネルギー/電力を用いたコンベア式大量生産の産業形態が米国で誕生
- ・第3次産業革命(20世紀後期~)
- 生産プロセスをエレクトロニクスとIT技術で制御しオートメーション化した産業形態が先進国で本格普及
- ・第4次産業革命(21世紀初期~)
- 企業間活動をサイバーシステムで繋ぎビッグデータの解析で最適な企業活動に導く産業形態を目指す
b) CPS(Cyber Physical System)とI o T(Internet of Things) とI 4.0
CPS:サイバーフィジカルシステムとは、現実の企業で稼働している機器(フィジカルシステム)と仮想な世界といえるコンピューティング(サイバーシステム)を結び付けたシステムのこと。前者はセンサーネットワーク技術など、後者はクラウド技術のそれぞれの進展がもたらした新しい概念です。(※図2参照) (※参考文献4)
CPSの環境では、フィジカルシステムから膨大なデータ(ビッグデータ)を収集し、新しい数学モデルで解析し活用します。従来のデータ解析手法は、はじめに「仮説ありき」で、この仮説検証のためにデータを活用します。このため、秀でた研究者や技術者の仮説形成能力に頼らざるを得ません。しかし、CPS空間でのビッグデータの活用は、従来の思考法では得られない「仮説の発見」が狙いで、そのための「仮説発見」に導くデータベースエンジンの開発が重要となります。「仮説発見」の鉱脈が得られると、思いがけない成果(極めて高い価値)を独り占めできる可能性が出てきます。 (※参考文献5)
I o Tは「モノのインターネット」と訳せ、この「モノのインターネット」構築の基礎をCPSが提供します。CPSとI o TとI 4.0の関係は下の構成で表現できます。
図2:サイバーフィジカルシステムのイメージ図
インダストリー4.0の展開計画
I 4.0は2020年から2025年頃までに実現することを目標としており、2025年には中国、米国を抜いて輸出世界1位となるロードマップが描かれています。 (※参考文献6)
- 第1ステップ:
- ドイツ国内でI 4.0体制を作り込む
- 第2ステップ:
- EU全域に規格を広める
- 第3ステップ(~2035年):
- グローバルに規格を広めて国際標準化を実現
参考文献
- 1. 先進国型ものづくり産業に向けたあり方に関する調査研究報告書、平成26年3月
Deloitte Touche Tohmatsu Limited and U.S. Council on Competitiveness. 2013 Global Manufacturing Competitiveness Index - 2. Fraunhofer magazine, 2014, 1/15
- 3. Industry4.0による製造業の変革と将来像、Jay Lee, IMS
- 4. ドイツが推進するインダストリー4.0の狙い、川野俊充、ロボット No.221, 2014.11
- 5. センサーネットワークの情報から新しい価値を生み出すサイバーフィジカルシステム、NII Today No.59
- 6. 次世代製造技術の研究開発 ドイツ編、棚田朋子、CRDS、平成27年1月