いま、「ネジチョコ」というチョコレートが北九州のお土産として話題だ。北九州の洋菓子店「グランダジュール」が作ったこのチョコレート、毎日作った分だけ完売してしまうほどの人気で、品薄状態が続いているという。製造現場を取材してみると、チョコとしての原材料へのこだわりだけでなく、CADを使った設計や3Dプリンタによるモデル製作、自動化による量産対応など、製造業との共通点が想像以上に多かった。ねじがちゃんと回る高精度のチョコレートに、ものづくり寄りの視点から迫った。
M14×14の六角ボルト、ねじピッチ3のオリジナルのねじだ。
この記事の目次
「鉄の街」北九州の新しいお土産品を作ろう!
鋳物と似ている? ネジチョコの作り方と工程上の課題
自動化で増産対応。生産能力はなんと20倍以上に!
北九州でしか買えないレアアイテムに
楽しいコラボ続々! 今後の展開
「鉄の街」北九州の新しいお土産品を作ろう!
「ネジチョコ」の商品開発が始まったのは2015年10月。同年7月に北九州市内にある官営八幡製鉄所の関連施設が世界遺産に認定されて以来、町全体が盛り上がり、観光客も増えていた。開発者である株式会社OAセンターの吉武太志社長は「売っているおみやげ品は博多のものばかりで、北九州オリジナルのものが本当に少ない。何か北九州らしいおみやげができないだろうか?」と考えた。
北九州市は昔から「鉄の町」「ものづくりの町」として日本の産業革命を支えてきた都市。そこでものづくりに関連するおみやげを作りたいと思って周囲を見渡してみると、当時駅前の市関連施設に3Dプリンタがあったため、「3Dプリンタで型を作ってチョコレートを作ろう」とコンセプトを決めた。
最初に作った試作品は、八幡製鉄所でも生産していた「H鋼」。しかし棒状の形がインパクトに欠けていたことと、細長い形状がチョコとして食べにくかったこともあってお蔵入りとなった。次に出たアイデアが、ものづくりの基本ともいえる「ねじ」。調べたら八幡製鉄所で以前製造していたことがわかり、商品化が決定。さらに「ねじが本当に回せたら、ものづくりの町の名物になるのでは?」と思い至り、「ねじを回せること」と「食べやすい一口サイズ」にこだわって試作を繰り返して、2016年2月に「ネジチョコ」が発売された。
鋳物と似ている? ネジチョコの作り方と工程上の課題
「ネジチョコ」製作の手順はこうだ。まず、パソコン上で3Dデータを作成した後、3Dプリンタで最終製品と同じ形のモデルを作り、そのモデルを元に食品用シリコンで、ねじ用とナット用の型を起こす。
もちろん型にはそれぞれに上型と下型があり、上型にはチョコを入れるための穴が開いている。この穴から溶かしたチョコレートを流し込み、チョコが固まるのを待ってシリコン型から外せば、ねじとナットの完成だ。
この話を聞いて思ったのが、「鋳物の工程とそっくり」ということ。なるほど、工程がものづくりっぽくなるのも納得だ。
ネジチョコの製造工程の中で一番難しいのが、固まったチョコを型から外す作業だという。そこでネジチョコの商品開発では、外しやすいねじ山の角度や高さ、型の柔らかさなどを何度も試作・検討を行った。
まず、ねじ山を鋭角にすると型から抜けにくくなってしまうので、ねじ山の角度を何度も微調整。生産に繰り返し使用するシリコン型は、硬すぎるとチョコが外れにくく、柔らかすぎると消耗が速くなってしまうため、適切な硬度が見つかるまで何度も試作を行った。また、型から外す作業も力加減が難しく、パートさんが慣れるまでは商品を壊してしまうことも多いので、ある程度の熟練度も必要だという。
さらに、チョコを流し込むときにうまく入らないとチョコの中に「巣」ができ、特にナット側を型から外すときに割れてしまう。「巣」が入ると強度が不足するのは、鋳物もチョコも同じということだ。
自動化で増産対応。生産能力はなんと20倍以上に!
ネジチョコは、2016年2月の発売当初は菓子店のパティシエが生産を担当していて、生産能力は1日最大500個程度だった。しかし発売がバレンタイン時期だったことと、発売前に商工会議所のイベントでお披露目した際に評判が良かったこともあり、発売後すぐに売り切れて早速「買えないチョコ」として話題になってしまった。
そこで平成27年のものづくり補助金に申請、採択されて、チョコを混ぜるテンパリングマシーンと、ピロー包装を自動化する包装機を導入。1日の生産能力を約6,000個まで引き上げることに成功した。
しかし日産6,000個でも生産が注文に追いつかなかったことに加え、作業で手首を痛めてしまうパートさんが出てきたことから、今度は型から外す作業の自動化を検討。装置製造業者に専用機の設計製作を依頼し、2017年末に自動化設備を導入した。現在の生産能力は1日約12,000個。当初の20倍以上の増産に成功したが、それでも毎日完売してしまう状況は続いている。
北九州でしか買えないレアアイテムに
企画のおもしろさが注目されがちなネジチョコだが、チョコとしての味と品質にもかなりこだわっている。原材料はカカオを50%以上配合した「クーベルチュール」という高級品。洋菓子店が作るチョコレートとしてのプライドを垣間見ることができる。また、手軽に食べられる一口サイズになっているのも「食べて味わって欲しい」という思いの表れだ。
顧客からは「ねじが最後まで締まるのが楽しい」と評判で、幅広い世代に受けている。子供はねじを回して遊べるし、女性にとっては「インスタ映え」するアイテムということでTwitterやInstagramなどのSNSに写真や動画を投稿している。年配の方々は「北九州らしいお土産ができた!」と喜んでくれる。
ネジチョコは2018年1月現在、北九州市内の20店舗で販売中。グランダジュールの2店舗のほか、小倉駅と北九州空港のみやげ物店と、地元のデパート井筒屋の6店舗で店頭販売を行っている。生産が追い付かないためインターネット販売は休止中で、「北九州に行かないと買えない」というレア感も人気に拍車をかけている。高額で転売しているサイトもあるそうなのでご注意を。
楽しいコラボ続々! 今後の展開
これまでネジチョコでは、いくつかのコラボ商品も出してきた。山陽新幹線とコラボして車内でワゴン販売した「ネジチョコ 新幹線」や、実際に八幡製鉄所で製造した鋼板で作った缶に入れたネジチョコを期間限定で発売し、即完売の大人気だった。また、ネジチョコの原型となるモデルは3Dプリンタで作っているので、いろいろな形状を簡単に作ることができる。これからどんなコラボ商品が飛び出すか、大変楽しみだ。
開発者の吉武社長によると、2018年は約10カ国で海外特許を取得予定で、海外とのコラボの話もちらほら出ているとのこと。それでも「待っていてくれるお客様にネジチョコを届けるのが最優先」と、繁忙期の今は生産を最優先し、新商品やコラボ商品の開発にはオフピーク時期を待って取り組む予定とのことだ。
チョコとして美味しいだけでなく、ねじを締める楽しみも味わえる「ネジチョコ」。ものづくり業界にいる我々にとっては特になじみが深いこのアイテム、北九州出張のお土産や取引先への手土産としてきっと喜ばれるだろう。