塗膜は、金属表面を腐食環境から遮断することに意義がありますが、一見頑丈そうな塗膜でも、意外に水や酸素を通しやすいことが分かっています。しかし電気的に絶縁性が確保できる十分な厚さがあれば防食機能を発揮できるようです。それゆえ、塗膜の電気抵抗が防食能力の指標として用いられています。
塗装された鋼の多くは、最初から存在するピンホールなどの欠陥や、機械的な作用によって生じたキズなどを起点として腐食を始めます。このように局部的に始まった腐食は、やがて周辺部へ広がります。このような腐食があちらこちらで発生して、腐食面積は増大します。
したがって塗膜は、キズや欠陥がなく、すぐれた防食性能をもつことが必要でありますが、一旦始まった腐食を横に広がらせない性質を持つことも重要です。このためには、塗膜が素地金属に密着していることが要求されます。
良好な塗装を行うためには、鋼表面の素地調整を十分に行うことが重要です。悪い素地の上に高級な塗料を使った塗装を施すよりも、素地調整を十分に行って、低級な塗料で塗装したほうが長持ちするのが普通です。
通常の鋼材は、黒皮(ミルスケール)といわれる熱間圧延過程で生じた酸化物皮膜で覆われています。この皮膜の厚さは不均一で、クラックが入っており密着性も悪く、塗装の下地としては適当ではありません。また黒皮は、環境中の塩素ガスや亜硫酸ガスを吸着していることがあるので、塗膜の密着性は悪く、さらに侵入してきた水によって塩素イオン、硫酸イオンが発生し、塗膜を劣化させます。また、素地面に油が付着していると密着性のよい塗膜を形成することは出来ません。
通常、黒皮やさびを除くには、サンドブラストなど機械的研掃法と、酸洗いによる方法が採用されています。橋梁やタンクなど大型構造物では、サンド(砂)ブラスト、ショット(鋼粒)ブラスト、グリット(鋼砕粒)ブラストなどの前者の方法が用いられます。
これらを行うと、表面の黒皮やさびが除去されるばかりでなく、表面に微細な凹凸ができるので、塗膜の接着面積を増大し、塗膜が錨をおろしたような投錨効果があり、塗膜の密着性を向上させます。
板厚が薄い鋼鈑(通常3mm以下)にブラストすると、衝撃力によって鋼鈑が変形するので適用できません。この場合には、酸に浸漬して化学的に溶解除去します。(酸洗い)
このように、清浄化した鋼表面に、燐酸塩処理を行って、りん酸亜鉛、りん酸鉄、りん酸カルシウムなどの皮膜を形成させると、これを下地とした塗膜の防錆・密着性は格段に向上します。このような処理を化成処理といいますが、鋼をりん酸塩処理溶液に浸漬するか、溶液をスプレーすることで成膜します。
通常、塗膜は、何層かに塗り分けます。下塗り、中塗り、上塗りなどにして、それぞれに機能を持たせます。例えば、下塗りは、素地との密着性、耐食性、上塗りは、腐食環境との対応性、中塗りは、この両者の付着性に重点をおいて設計されます。