淡水に少量の食塩を添加した水溶液に鋼を浸漬すると、著しく腐食が促進されます。天然海水の食塩濃度は場所によって違いますが、平均3%(30g/L)といわれ、自然環境の中では最も腐食性の強い環境です。また、鋼の海水中での腐食は、流速に比例して大きくなるといわれております。
また、天然海水の成分は極めて複雑で、食塩のほかに溶存酸素など多くの腐食性成分を含んでおりますので、実際の腐食状態は、場所により、時期によって異なります。
鋼の海水による腐食を考える場合、水中にある場合よりも、海水中に浸したり引き上げられたりする場合のほうが、鋼の腐食速度は極めて大きくて問題です。例えば港湾の護岸用に使われている鋼杭を考えてみてください。
鋼杭は、岸壁に鋼矢板を海底まで打ち込んだもので、その腐食環境は、海底土から海水中を通って海上に達しています。腐食が最も大きいのは、海面より少し上の、波がぶっつかってしぶきのかかる部分です。この部分を「飛沫帯」と呼んでいるそうです。海中では溶存酸素の量が限られるので腐食速度は限定されますが、飛沫帯では、海水に濡れる上に空気中から酸素が十分に供給されますので、腐食が進みます。
このような腐食は、海水から引き上げられた状態でも、表面に付着している塩分が湿気を呼び、付着する水の層の厚さが薄いため酸素の供給量が多く、浸してあるときより大きな腐食速度となるためです。
淡水では、空気中に引き上げてからの腐食は小さくなりますが、海水の場合には、腐食が大きくなるということは、空気中で海水に濡れると腐食が大きくなると考えればよいでしょう。
鋼杭に限らず、海上空港、海上連絡橋、海上都市、石油掘削塔など海上構築物の防食が問題になりますが、これらは、大気、飛沫帯、干満帯、海中、海底土などの腐食環境に分類して対策をたてております。
最も腐食環境が厳しい飛沫帯における防食対策としては、200〜300ミクロン厚の通常の塗装では歯がたたないので、2〜3mm厚のモネルメタル(Ni70%、Cu30%)などの耐食合金の板を巻き付けたり、これらのクラッド板で作った鋼杭を使用する方法が採用されています。
また最近では、10mmにも達する有機質ライニングとして、レジンモルタル、タールエポキシ、ウレタンゴムなどが用いられ、効果をあげているようです。
海中や海底土環境の防食には、塩化ナトリウムなど電解質が豊富なことから、電気防食法が効果をあげているようです。(電気防食法については後述します。)