厚板打抜き用パンチ・テーパヘッドパンチとは
厚板や高張力鋼板などの打抜きでは、パンチの刃先部の摩耗や折損、チッピングの他にパンチ頭部が破損することがしばしば起こります。このパンチ頭部の破損は、パンチ頭部に発生する応力集中と引張り衝撃力が主因とされています。ミスミの厚板打抜き用パンチ・テーパヘッドパンチは、パンチ頭部の形状を変えて強度アップを図ったパンチです。
パンチ頭部破損の原因について
1.応力集中〔図1〕
パンチ頭部は、シャンク部から頭部にかけて形状が急変しているため、応力集中が起こります。そのため刃先径やシャンク径との兼ね合い次第では、頭部に刃先よりも大きな応力が作用して破損する場合があります。
● 厚板打抜き用パンチは、標準パンチよりもパンチの首下Rを大きくすることで、応力集中を緩和したものです。しかし首下Rを大きくすると頭部外径も大きくなり、コストや取付けスペースの面で不利になるため、過度のR拡大は非現実的です。
● テーパヘッドパンチは、厚板打抜き用パンチと同じ首下Rのままで、頭部をテーパ形状とすることにより、より一層の応力集中の低減を図ったものです。
〔図1〕応力集中状況
2.弾性波による引張力〔図2〕
パンチは打抜き時に大きな圧縮力を受けますが、パンチが材料を打抜いた瞬間(ブレークスルー)には、急激に圧縮力が開放され、逆に大きな引張の衝撃力が発生するといわれています。1)2)
この引張衝撃力は、場合によっては打抜き荷重に匹敵するような大きな力であり、これが頭部破損の原因になっています。
【参考文献】
1)永井,島貫,昭和60年度 塑性加工春季講演会
2)高石,前田,森,他 昭和56年度 塑性加工春季講演会
〔図2〕引張力発生状況
厚板打抜き用パンチ・テーパヘッドパンチの特長〔図3~5〕
1.パンチ頭部の厚み
パンチ頭部の厚みは、衝撃力からの引張によるせん断破壊を防止するため、厚めに設定しました。
- 厚板打抜き用パンチ:8mm
- テーパヘッドパンチ:約7mm(リングとの組合せつば厚で8mm)
2.パンチ頭部の外径と首下R
厚板打抜き用パンチは、応力集中緩和効果と経済性を考慮して首下RをR1.2~1.5、頭部外径をD+5mm(D:パンチシャンク径)と設定しています。
テーパヘッドパンチは、首下R1.2~1.5、頭部外径をD+3mmとし、テーパリングと組み合わせて使用する場合に、厚板打抜き用パンチと同じ外径(D+5)となるように設定しました。
3.パンチ頭部上面外周
パンチ上面の外周は傾斜面になっています。これは万一パンチの軸芯がずれていた場合に、外周付近にかかる曲げモーメントによる破壊を防止するためです。
〔図3〕パンチ形状
〔図4〕パンチ頭部の破壊
〔図5〕曲げモーメントの減少
パンチ頭部の強度……〔図6・7参照〕
標準パンチ頭部の引張り強度を1とした場合、厚板打抜き用パンチは約1.5、テーパヘッドパンチは約1.9の引張り強度があります。〔図6〕
パンチ頭部の疲労強度で比較すると、例えば繰り返し数104で比較すれば、厚板打抜き用パンチ頭部は標準パンチの約1.8倍応力に耐えます。また応力784MPa〔80kgf/mm2〕で比較した場合、厚板打抜き用パンチ頭部は標準パンチの60倍近い繰り返し回数に耐えます。〔図7〕
テーパヘッドパンチは、頭部の引張強度が厚板打抜き用パンチよりも更に20%程度高いため、厚板打抜き用パンチ以上の疲労強度があると推測できます。そのためテーパヘッドパンチは厚板打抜き用パンチでも頭部破損が問題となるような用途-例えば980MPa〔100kgf/mm2〕級以上の高張力鋼板やバネ鋼、焼入れ鋼の打抜きなど-に適したパンチです。
〔図6〕各種パンチ頭部の引張強さ(D=10,SKH51)
α:パンチ頭部の応力集中係数
〔図7〕厚板用と標準パンチの疲労強度(D=5,SKH51)
ご使用にあたって
- 製品データこちらに、パンチ刃先径とシャンク径の選定基準を掲載しています。加工材料のせん断抵抗、板厚、パンチ径及び総打抜き数の関係から、最適のパンチ(刃先径及びシャンク径)が選定できます。
- テーパヘッドパンチはパンチとテーパリングで現物合わせ加工を行っていますので、同じ識別マークのものを組み合わせて使用してください。