プラスチック材料
- 射出成形に使用される熱可塑性樹脂(Thermoplastic resin)は、金型の中に加温されて液状になった状態でキャビティ内へ注入されて、金型の表面に接触することで熱量を奪われて冷却され、固化します。 このときに、液体のときの体積は、固化する際に体積収縮を起こして縮みます。この現象を「成形収縮」と呼んでいます。英語ではshrinkageと言います。 成形収縮は、プラスチック射出成形品を作る上では大変重要な物理現象です。所望の寸法や形状の射出成形品を生産するためにはこの物理現象を的確に理解しなければなりません。 さらに、射出成形金型の設計や機械工作をする際には、成形収縮を考慮した寸法と寸法公差でキャビティなどを作る必要があります。 成形収縮は、熱可塑性樹脂の種類によって大きく範囲が決定されます。つまり、樹脂の種類によって収縮率は左右されます。しかし、樹脂の種類以外にも以下の要素を考慮しなければなりません。
- プラスチック成形材料の中で、熱可塑性樹脂を射出成形によって金型のキャビティ内へ流動させる場合、溶けた樹脂はある粘度を持った流体としてスプルー、ランナー、ゲートそしてキャビティ内を流動します。流動抵抗によって樹脂の流速や圧力は変化します。そして、樹脂の粘度は金型の表面に接触することによって温度がだんだん低下していって、粘度も時々刻々と低下していき、最後には流動ができない状態まで粘度が低下していきます。 流動ができなくなるまで冷却されてしまいますと射出成形加工がそれ以上不可能になってしまいます。このように熱可塑性樹脂の射出成形加工では樹脂を流動させることができる距離が成形品の厚さやランナーサイズに左右されることがわかります。
- PET樹脂とは、ポリエチレンテレフタレート樹脂の略称です。 PET樹脂は、溶融温度が270℃近辺で、成形温度は、270~280℃であり、比較的高温で射出成形を行います。この樹脂の特徴の一つとして、流動性があります。融点以上では流動性が良好ですが、固化が始まると一気に流動がしにくくなります。つまり、樹脂温度の変化と流動性が密接に関係しているということになります。金型の温度管理、樹脂温度管理は、PET樹脂には必須の項目になります。多くの場合、PET樹脂の射出成形ではホットランナーが使用され、さらにバルブゲートが選択されます、これは、ゲートの開閉遮断を機械的に行うことで流動の管理を確実にしたいがためなのです。 流動が良好なので、金型のクリアランス管理や充填圧力による金型の変形にも配慮が必要になります。特にホットランナーのマニホールドデザインでは、変形防止、熱膨張代の管理などがポイントになります。 また、PET樹脂は、水分に敏感に反応しますので、成形材料のペレット予備乾燥は徹底して行い、管理レベルも高くしなければなりません。水と反応すると加水分解を起こします。したがって, PET樹脂の射出成形では材料予備乾燥装置が必須になります。タグ:
- プラスチック成形材料は、高分子からできあがっていますが、その化学式によっておおまかに以下のような傾向があることが知られています。
- プラスチック材料には、実は、さまざまな補助材料を添加ブレンドして、実用性に適応した改質が行われている場合が多いのです。補助材料には、その目的によっていろいろな成分が実用化されています。 以下に補助材料の主要なものを紹介します。 1.可塑剤 プラスチックに柔軟性を付与したり、成形加工時の金型内での流動性を向上させるために使用されます。主に低分子物質を用います。 2.熱安定剤 プラスチックが熱によって分解することを防止するために使用されます。 3.酸化防止剤 プラスチックが、酸化して劣化することを防止するために使用されます。 4.光安定剤 太陽光線や蛍光灯からの紫外線によりプラスチックが劣化することを防止するために使用されます。 5.滑剤 プラスチック成形品が、金型から離型しやすくするために使用されます。ワックス(ろう)や界面活性剤が使用されています。 6.表面処理剤 プラスチックの接着性を改善するために使用されます。タグ:
- プラスチックは、大別して熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂があります。読者のほとんどは、熱可塑性樹脂の射出成形金型た成形加工に携わっていると思いますが、最近では熱硬化性樹脂の射出成形加工も行われるケースも増えてきています。 基本的な事項ですが、熱硬化性樹脂と熱可塑樹脂ではその性質が大きくことなっています。これらを整理してもう一度復習を図りたいと思います。
- プラスチック材料には、ポリマーに何種類かの添加剤を混ぜて、射出成形に用いることがあります。様々な用途向けに添加剤は開発されており、これらを組み合わせて配合することで同一の種類であってもいろいろなグレードの樹脂があるということになります。 以下に主要な添加剤とその目的を挙げてみます。タグ:
- スチレン系プラスチックは、硬質の射出成形品に多用されている樹脂です。主な種類には以下の材料があります。 (1) ポリスチレン (2) ハイインパクトポリスチレン (3) ABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体) (4) m-PPE(変性ポリフェニレンエーテル) スチレン系プラスチックには、共通して以下のような特徴があります。タグ:
- プラスチック射出成形で使用される合成樹脂材料は、原油や天然ガス、石炭等の天然素材から工業的プロセスを経て製造されています。一般の成形加工業や金型製造業では少し縁遠い存在かもしれませんが、日頃使用している合成樹脂がどのような工程で製造されているのかを知ることは有意義です。今回は、主要な合成樹脂が製造される工程を紹介します。 ※工程は概略のプロセスを示し、実際にはさらに詳細な工程が組み合わされている場合があります。
- 現代社会では、自動車や家電、食品容器、医療用具などの生活に不可欠な製品の無数の部品に、プラスチック素材が利用されています。しかし、工業用途で使用されるプラスチックが、化学合成によって人工的に生産が可能になったのはわずか135年ほど前であって、人類の歴史の中ではつい最近になって見出された素材なのです。 初期のプラスチック素材は、天然に存在する有機物でした。代表的なものとしては、ゴムの樹液からつくられる生ゴム、南方の国々に生息するラック虫が分泌する液から作られるシェラックなどが挙げられます。また、「松やに」も天然樹脂の一種と考えてよいでしょう。 プラスチックを人工的に合成ができるようになった最初は、硝化綿(セルロースニトレート)です。別名はセルロイドとして著名です。初期の子供のおもちゃでは、セルロイド製の玩具が大流行した時期がありました。硝化綿は、ドイツのシェーンバインによって1845年に初めて合成されました。 その後、アメリカのジョン・ハイアットが硝化綿に樟脳(しょうのう)を混ぜてセルロイドを発明し、ビリヤードの球として採用され、その後玩具や人形などに世界中で多用されました。
- プラスチックの強度を改善するためにガラス繊維を添加したプラスチックが使用されていますが、通常のガラス繊維の長さは0.3〜0.6ミリ程度に止まっています。しかし最近では、ガラス繊維長さを6〜15ミリと極めて長くして添加する長繊維強化プラスチックが開発されています。 長繊維強化プラスチックの特徴は次の通りです。
- プラスチックの強度を強化するために、材料にガラス繊維を添加したプラスチックが射出成形で使用されています。ガラス繊維は、それ自身がプラスチックよりも強度を有していますが、ガラス繊維のみでは耐衝撃性が低くもろい特性がありますので、プラスチックと混合されることにより、もろさの弱点を回避した成形材料として実用に耐えられるようになります。 ガラス繊維入りプラスチックは、射出成形の際に以下のような現象が発生することが知られていますので、使用に際しては留意が必要になります。 (1)配向の発生 ゲートからキャビティへ流入する際に、ガラス繊維が流れの方向に沿って並んでしまう現象が発生しやすくなります。この現象は、配向(オリエンテーション)と呼ばれています。配向の発生によって、成形収縮率が流れ方向と流れに直角方向で大きな不均一が生じます。 また、引張強度や圧縮強度が繊維の方向によって変化します。
- プラスチック材料は、過度の熱エネルギーを受け、高温になると燃焼をする材料が多い特徴があります。したがいまして、プラスチック材料の燃えやすさ(燃えにくさ)は様々な試験方法によって定義され、その素材が燃焼環境的に使用可能かどうか判断する指標となっています。 プラスチックの燃焼に関する試験方法や法令には世界各国で様々なものが規定されています。実際にプラスチック材料を選定する場合にはこれらの規格についてどのレベルを満足しなければならないかを顧客や社会的責任と照らし合わせて検討をする必要があります。 現在、世界各地で採用されている主な法令や試験方法には、下記のようなものがあります。
- プラスチックは、ある特定の溶剤に対して溶解したり、残留応力(ストレス)が残っている場合に亀裂(クラック)を生ずる場合があります。これはプラスチック自身が石油化学的に生成される物質であることから、特定の溶剤と化学的に反応してしまうために生ずる現象です。 下記のプラスチックでは、以下のような溶剤に対して、クラックが発生する危険性があります。
- 液晶ポリマー(LCP、Liqud Crystal Polymer)は、良好な耐熱性を有するスーパーエンジニアリングプラスチックとして電子部品、コネクターに採用されています。 液晶ポリマーは、成形品が薄肉であっても良好な流動性を示しているため、コネクター類などの薄肉小型精密成形品の射出成形も可能です。 表面実装方式(SMT)ではんだ付けされる部品では、今後、「鉛フリーはんだ」が環境対策として推奨される社会情勢があり、「鉛フリーはんだ」はSMT時の温度が260℃程度まで上昇させなければならないため、従来他の樹脂で使用されていた電子部品が液晶ポリマーに変更される例が増えてくると予想されています。 現在の日本での液晶ポリマーの需要量は年間9,000トン程度と推測されています(2006年)が、今後3年ぐらいの間には需要量は30%程度増加するという予測もあります。 液晶ポリマーは優良な耐熱性、薄肉流動性を有する反面、以下のような成形加工上の難点があります。 (1)ウエルド強度 液晶ポリマーは流動性は良好であってもウエルド部の密着強度が低いという欠点があります。金型設計上ではこのポイントをいかに克服する構造を採用するかが重要な部分になります。タグ:
- 熱可塑性エラストマー(TPE、Thermo Plastic Elastmer)は、射出成形が可能なゴム状の成形材料で、各種の用途で実用化されています。 熱可塑性エラストマーには、いくつかの種類があって、特性ごとに応用分野が異なってきます。 以下に主な種類と特性を紹介します。
- プラスチック原材料の中でも最近、射出成形材料として使用される頻度が多くなっている材料としては、次のようなものがあります。当然に、これらの材料を使用する金型の新規生産も、増加していると考えて良いと思います。 (1)ポリカーボネイト(PC) 国内生産量41万トンと大量に生産されており、液晶テレビモニター、DVDプレーヤー、携帯電話筐体、導光板、TFT関連、電池パック、プリンター部品、自動車用照明部品などに採用されている。 透明度が良好で、高強度、高耐熱性であるが、成形加工性は悪く、流動性が低いので、高い圧力で金型内に充填させなければならない。金型温度も高く設定する機構が必要になる。 最近では、バルブゲートを使用することで、これらの問題を解決する技術も登場している。 (2)ポリフェニレンサルファイド(PPS) 国内生産量2万トンもの生産量になり、表面実装対応耐熱電子部品、光ピックアップ、自動車部品等へ使用されている。ガラス繊維を混ぜて使用する例も多い。流動性は良好である反面、僅かの金型の隙間でも流入しやすいのでバリが発生しやすい。金型温度は150℃程度にまで上げなければならない。 需要に対して生産が追いつかない状況が続いている。タグ:
- プラスチック成形材料は、一般にペレット状態に加工されて、紙袋などに入れられて原材料メーカーから搬入されてきます。 ペレットには、大気中の水分が吸湿されていますので、水分が多く含まれたままで射出成形加工してしまいますと、樹脂の種類によっては加水分解を発生したり、物性が低下したりする場合があります。また、銀条(シルバーストリーク)が成形品の表面に発生したり、ガスによるショートショットや焼けが発生しやすくなる場合もあります。 そこで、成形材料の多くは、ホッパードライヤーへ投入する前に、箱形乾燥炉で予備乾燥させることが必要になります。 予備乾燥は、適切な乾燥温度と乾燥時間を守ることが推奨されます。適正な温度以下でいくら長時間乾燥させても、水分は思うように排除できない場合があるからです。予備乾燥が終わった材料は、できるだけ早く使いきるようにします。余ってしまった材料を後日使用する場合には、再度の予備乾燥を行いましょう。 【表1】には、特殊なプラスチックの予備乾燥条件を示しています。 【表1】プラスチック成形材料の予備乾燥湿度