射出成形:基礎知識
- 射出成形の条件として、樹脂温度と保圧がありますが、これらには密接な関係があります。射出成形が可能な領域、言い換えれば良品が成形加工できる領域は、無限にあるわけではなく、ある一定範囲の前提が満たされた場合に限定されます。 【図】には、樹脂温度と保圧の2元関係を図示しています。 この図からは、次のようなことが判ります。
- 一般に、成形サイクルを構成している要素は、下記が挙げられます 1.型閉時間 金型が閉まるまでの時間です。金型の開閉時間は、射出成形機の型開きストロークと型閉速度によって左右されます。 金型は、質量がありますので、無闇に型閉速度を早くしすぎますと、金型が閉じる時に運動エネルギーにより金型が破損する可能性がありますから、ブレーキをかけることを考える必要があります。 2.充填時間 充填時間は、スプルーから流入した溶融樹脂がキャビティの中を完全に充填するまでの時間です。 充填時間は、射出成形機の射出速度(実際には、射出スクリューまたはピストンの移動速度と射出シリンダー直径によって決まる、射出体積/時間=射出率(cm3/sec))によって左右されます。 また、溶融樹脂の粘度によっても左右されます。充填時間が短いと樹脂の充填速度が速くなりすぎて、樹脂焼けやガスを発生させることがあります。一方、充填時間が長すぎると成形品の表面にフローマークやウエルドが明瞭に現れてしまうことがあります。タグ:
- 射出成形に使用される熱可塑性樹脂(Thermoplastic resin)は、金型の中に加温されて液状になった状態でキャビティ内へ注入されて、金型の表面に接触することで熱量を奪われて冷却され、固化します。 このときに、液体のときの体積は、固化する際に体積収縮を起こして縮みます。この現象を「成形収縮」と呼んでいます。英語ではshrinkageと言います。 成形収縮は、プラスチック射出成形品を作る上では大変重要な物理現象です。所望の寸法や形状の射出成形品を生産するためにはこの物理現象を的確に理解しなければなりません。 さらに、射出成形金型の設計や機械工作をする際には、成形収縮を考慮した寸法と寸法公差でキャビティなどを作る必要があります。 成形収縮は、熱可塑性樹脂の種類によって大きく範囲が決定されます。つまり、樹脂の種類によって収縮率は左右されます。しかし、樹脂の種類以外にも以下の要素を考慮しなければなりません。
- 射出成形加工されたプラスチック成形品は、2以上の成形品どうしを後加工で接合して製品にすることがしばしば行われます。一回の射出成形で加工できればよいのですが、アンダーカット形状がある場合などは2部品を作ってから、溶接などで接合しなければならない場合もあります。 プラスチック成形品の接合加工法としては以下の方法があります。 1.熱接着法 金属板を電熱ヒーターで加熱して、成形品を加圧して融着させる方法です。フィルムや袋などで多用されています。 2.瞬間熱接着法 熱接着法の一種ですが、金属リボンヒータに加熱して融着させます。金属リボンヒータは細いので加熱と冷却に要する時が瞬間になりますので、接合部がきれいにしっかりと接合させることができます。 3.ホットジェット 電熱ヒーターを内蔵したエアーブロー装置から熱風を送り出してプラスチックを融着させる方法です。ヘアドライヤーと類似した方法です。溶接棒を用いて肉盛りしながら接合させることもできます。 4.高周波誘電加熱接着法 高周波を送ることでプラスチックの部分を加熱して接合させる方法です。フィルム、シートの接合で多用されています。タグ:
- プラスチック射出成形機でプラスチック材料を溶かして射出できる状態することを可塑化と呼んでいます。今日の射出成形機ではスクリューインライン方式(Screw In-Line)が可塑化装置の大半を占めています。 スクリューは、耐摩耗性、耐食性、高強度の金属材料で作られており、その表面には特殊なコーティングを施しているものもあります。 スクリューは、材料ペレット(粒)を加熱シリンダー内に食い込ませて前進させるためにらせん溝が機械加工されています。 らせん溝は、以下の部分で構成されています。 1.供給部 供給部は、ペレットがホッパーから重力で落下してきたものを加熱シリンダー内に導いて、その間にペレットを余熱して圧縮部で溶かすための準備をする部分です。 2.圧縮部 圧縮部は、らせん溝が徐々に浅くなるように機械加工されています。そして余熱されたペレットがさらに加熱されて溶融します。溶融しながらペレットに巻き込まれていた空気や発生したガスは、らせん後部からホッパー側へ排気されます。 3.計量部 計量部は、溶けた材料をさらに混合して均一に溶けるようにする部分です。タグ:
- PET樹脂とは、ポリエチレンテレフタレート樹脂の略称です。 PET樹脂は、溶融温度が270℃近辺で、成形温度は、270~280℃であり、比較的高温で射出成形を行います。この樹脂の特徴の一つとして、流動性があります。融点以上では流動性が良好ですが、固化が始まると一気に流動がしにくくなります。つまり、樹脂温度の変化と流動性が密接に関係しているということになります。金型の温度管理、樹脂温度管理は、PET樹脂には必須の項目になります。多くの場合、PET樹脂の射出成形ではホットランナーが使用され、さらにバルブゲートが選択されます、これは、ゲートの開閉遮断を機械的に行うことで流動の管理を確実にしたいがためなのです。 流動が良好なので、金型のクリアランス管理や充填圧力による金型の変形にも配慮が必要になります。特にホットランナーのマニホールドデザインでは、変形防止、熱膨張代の管理などがポイントになります。 また、PET樹脂は、水分に敏感に反応しますので、成形材料のペレット予備乾燥は徹底して行い、管理レベルも高くしなければなりません。水と反応すると加水分解を起こします。したがって, PET樹脂の射出成形では材料予備乾燥装置が必須になります。タグ:
- 1.スクリュー回転数 プラスチック射出成形条件におけるスクリュー回転数は、ペレットを混練するためのスクリューの回転数のことです。単位はrpm(回/分)です。 スクリュー回転数が早すぎると溶融樹脂内にエアーを巻き込んでしまいガスが発生しやすくなる場合があります。またスクリュー回転数が遅すぎると十分な混練ができず材料品質がばらついてしまう場合が考えられます。 2.スクリュー背圧 スクリュー背圧は、材料の計量時にスクリューが後退する際の圧力をさします。単位は、MPa、またはkgf/cm2です。背圧の変化により材料の混練状態が変動します。 3.金型開閉速度 金型開閉速度は、金型の開く速度、閉じる速度のことで、単位はmm/sです。金型開閉時間は短いほうがサイクル短縮に効果的ですが、型閉速度が速すぎると金型が急激に衝突する危険性が高くなってしまうので直前でブレーキをかける必要があります。 また型開き速度が速すぎると離型の状態が変動してしまい品質を変動してしまう場合があります。タグ:
- 1.冷却時間 プラスチック射出成形条件における冷却時間は、成形品を金型内で固化させておく時間のことです。保圧が終了すると冷却時間に切り替わります。単位はs(秒)です。 冷却時間が短すぎると収縮が大きくなり寸法が小さくなってしまい、突き出し時に変形してしまう場合もあります。 一方、冷却時間が長いと成形サイクルが長くなり生産性が低下します、つまり成形品の加工コストが上昇することになります。冷却時間は成形サイクルの要素の中で最も支配率が大きな要素なので成形サイクルを短縮するためには冷却時間をいかに短くできるかが重要な鍵を握っています。 2.計量位置 計量位置は、スクリューやプランジャーが射出に必要な体積の樹脂を計量するための位置のことです。単位はmmです。 計量位置が短すぎると充填不良が生じます。計量位置が長すぎるとシリンダー内に余分な樹脂が滞留して焼けが発生したり、ガスが発生する場合があります。計量位置は成形品の射出体積を考慮して少なすぎず、多すぎない妥当な分量の樹脂を毎回計量できる位置を最善とします。
- 1.充填圧力 プラスチック射出成形条件において、充填圧力は、樹脂を金型内へ充填させるための圧力のことで、一次圧力とも呼ばれています。単位は、MPa、またはkgf/cm2です。つまり、圧力の単位となります。射出成形機の最大射出圧力を100%としてその何%であるかを変化させて条件調整をする機械もあります。(例:35%) 充填圧力が低すぎる場合には充填不良(ショートショット)が発生します。充填圧力が高すぎる場合にはパーティング面が圧力で瞬間的に開いてしまい成形品の周囲にバリが発生する場合もあります。また金型からの離型不良が生ずる場合もあります。 2.射出速度 射出速度は、金型内へ溶融したプラスチックを充填する際のスピードのことです。単位はmm/sとなります。 単位時間あたりの射出体積として考えた場合には「射出率」として表示する場合もあります、この場合には単位はcm3/sとなります。 射出速度が遅すぎる場合には充填不良が発生する場合があり、射出速度が速すぎる場合にはバリ、ジェッティング(成形品表面に蛇行した模様が発生する不良)が発生する場合があります。
- 1.射出成形機の成形条件 プラスチック射出成形機を操作して実際の射出成形加工をするためには成形材料、金型とを用いて成形品の仕様にマッチングさせた状態の成形品を加工しなければなりません。単純に金型内に溶けたプラスチックを射出注入し、固化させて取り出しただけでは、成形品の寸法は大きくばらつき、外観の光沢や転写もむらが生じ、均一な品質の成形品を得ることはできません。 所望の品質の射出成形品を得るためには射出成形機の「成形条件」と呼ばれている各種の調整パラメータを調節し、寸法や外観の品質をコントロールしながら仕様を満たすように条件調整作業が必要になります。 つまり、成形条件の調整の良し悪しによって金型から生産されるプラスチック射出成形品の品質は左右されるということになります。この条件調整のパラメータの調整範囲が広ければ品質仕様を変化させられる範囲も広くなり調整がしやすくなります。「金型の出来が良い」と一般に言われる場合にはこのような条件調整の幅が広いことが多いです。翻って考えれば、金型設計の際には成形条件の調整幅が広く設定できるような配慮をしておくことが大切であると言えます。例えば、冷却回路の流量が十分に確保できるように設計する、ガスベントを的確に設けて高速充填しても焼けが発生しにくく工夫する等です。
- 1.射出成形機の動力源 射出成形機の動力源としては、次に挙げる3つの方法が主に採用されています。 1)油圧式 2)電動式 3)ハイブリッド式 油圧式は、射出成形機が開発されてから現在まで最も多用されてきた方式です。油圧ポンプを電動モーターで作動させて供給される作動油の油圧により型開閉、射出等の機構を作動させます。高圧の型締め力を比較的容易に実現できるなどの利点がある反面、精密な制御が難しい、複数のアクチュエータを同時並行に作動させるのが困難等の不利な面もあります。 電動式は、CNC制御(コンピュータ数値制御)によるACサーボモーター(交流)で駆動させる方式です。この方式では作動油を一切使用しないで、正確な動作を実現可能で、しかもクリーンで静穏な作動ができます。消費電力も油圧式に比較して40~50%とランニングコストも低いメリットがあります。最近では型締め力2000トン級まで電動式が開発されており、350トン以下では今後はこの方式が主流になっています。 ハイブリッド式は、油圧式と電動式の双方を採用した方式で、それぞれのメリットを引き出すことを目的としています。射出側、可動側のいずれかを油圧式にするパターンが一般的です。タグ:
- 1.射出装置 プラスチック射出成形機の射出装置は、射出プランジャーやスクリューがシリンダー内を前進して金型内へ溶融したプラスチックを射出する装置です。 射出装置の性能は、射出率(1秒間に射出される溶融樹脂の体積、cm3/s)や射出速度(プランジャー前進速度、mm/s)で表されます。 スーパーエンジニアリングプラスチックの一部では射出率が大きな射出装置を使用しないと成形品の品質が損なわれてしまう素材があったり、逆に低速で安定した射出ができる射出装置が適しているプラスチックもあります。 どのような射出装置が適しているのかは使用する成形材料の種類に密接に関連していると言えます。 射出装置の先端部にはノズルが設けられていて、ノズルの最先端部は通常は球状に加工されていて、金型のスプルーブシュの球面の座に密着できるようになっており、射出時の樹脂漏れがしないように配慮されています。ノズルにはいくつかの種類があり、オープンノズル、シャットオフノズル、ニードル弁付きノズルなどがあります。タグ:
- プラスチック射出成形機は、プラスチック材料を流動状態にして金型のキャビティへ射出注入し、固まった成形品を金型を開いて取り出す加工をするための機械です。射出成形機は今日では世界の主要工業国で競うように多数のメーカーがさまざまな種類の機械を製造販売しており、統一された標準構造で製作されているわけではなく、使用用途や機械の大きさ、精度等によって各種の構造があります。市場で最も普及しており一般的な射出成形機は、以下のような構造をしています。 1) 使用材料:熱可塑性プラスチック用 2) 可塑化・射出構造:スクリューインライン方式 3) 動力源:油圧式、電動式、ハイブリッド式(油圧式と電動式の併用) 射出成形機は、一般に下記の機能部分から構成されています。タグ:
- プラスチック材料には、実は、さまざまな補助材料を添加ブレンドして、実用性に適応した改質が行われている場合が多いのです。補助材料には、その目的によっていろいろな成分が実用化されています。 以下に補助材料の主要なものを紹介します。 1.可塑剤 プラスチックに柔軟性を付与したり、成形加工時の金型内での流動性を向上させるために使用されます。主に低分子物質を用います。 2.熱安定剤 プラスチックが熱によって分解することを防止するために使用されます。 3.酸化防止剤 プラスチックが、酸化して劣化することを防止するために使用されます。 4.光安定剤 太陽光線や蛍光灯からの紫外線によりプラスチックが劣化することを防止するために使用されます。 5.滑剤 プラスチック成形品が、金型から離型しやすくするために使用されます。ワックス(ろう)や界面活性剤が使用されています。 6.表面処理剤 プラスチックの接着性を改善するために使用されます。タグ:
- プラスチックは、大別して熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂があります。読者のほとんどは、熱可塑性樹脂の射出成形金型た成形加工に携わっていると思いますが、最近では熱硬化性樹脂の射出成形加工も行われるケースも増えてきています。 基本的な事項ですが、熱硬化性樹脂と熱可塑樹脂ではその性質が大きくことなっています。これらを整理してもう一度復習を図りたいと思います。
- プラスチック材料には、ポリマーに何種類かの添加剤を混ぜて、射出成形に用いることがあります。様々な用途向けに添加剤は開発されており、これらを組み合わせて配合することで同一の種類であってもいろいろなグレードの樹脂があるということになります。 以下に主要な添加剤とその目的を挙げてみます。タグ:
- スチレン系プラスチックは、硬質の射出成形品に多用されている樹脂です。主な種類には以下の材料があります。 (1) ポリスチレン (2) ハイインパクトポリスチレン (3) ABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体) (4) m-PPE(変性ポリフェニレンエーテル) スチレン系プラスチックには、共通して以下のような特徴があります。タグ:
- プラスチックの強度を改善するためにガラス繊維を添加したプラスチックが使用されていますが、通常のガラス繊維の長さは0.3〜0.6ミリ程度に止まっています。しかし最近では、ガラス繊維長さを6〜15ミリと極めて長くして添加する長繊維強化プラスチックが開発されています。 長繊維強化プラスチックの特徴は次の通りです。
- プラスチックの強度を強化するために、材料にガラス繊維を添加したプラスチックが射出成形で使用されています。ガラス繊維は、それ自身がプラスチックよりも強度を有していますが、ガラス繊維のみでは耐衝撃性が低くもろい特性がありますので、プラスチックと混合されることにより、もろさの弱点を回避した成形材料として実用に耐えられるようになります。 ガラス繊維入りプラスチックは、射出成形の際に以下のような現象が発生することが知られていますので、使用に際しては留意が必要になります。 (1)配向の発生 ゲートからキャビティへ流入する際に、ガラス繊維が流れの方向に沿って並んでしまう現象が発生しやすくなります。この現象は、配向(オリエンテーション)と呼ばれています。配向の発生によって、成形収縮率が流れ方向と流れに直角方向で大きな不均一が生じます。 また、引張強度や圧縮強度が繊維の方向によって変化します。