8)静止加工
いままで述べた電解加工の応用では、すべて電極工具と加工物に間に相対的な運動があり、加工の進行に応じて電極が加工物の中へ送り込まれますが、応用形態として両者の間にこの運動がなく、電解液だけが電極工具と加工物の間を流通する場合があります。この方式を静止加工といっています。
【図1】は加工物であるシリンダーの内部に棒状の電極を入れ、電極の所要部分以外は絶縁して固定し、電解液を電極と加工物の間の環状の間隙を流通させながら通電し、シリンダーの内面を電解エッチングすることによってシリンダーの内径を拡大する静止加工です。この加工方法は、電解バルジ(electrolytic bulge)、または電解ボーリング(electrolytic boring)と言われています。
同じような方法で、盲孔の拡大加工を行うことができます。このような静止加工では、平衡間隙は存在せず、したがって最初の寸法精度がある程度仕上げ精度を左右しています。
9)電解バリ取り加工
この加工方法は静止加工の特殊の場合と考えることができます。電極工具の形状、位置などを適当にして電解溶出作用をバリだけに制限することによって「バリ取り」を実施するものです。
従来、機械加工で生じるバリの除去は、ポータブルグラインダ、ヤスリ、タガネなどの手作業に依存することが多かったのですが、最近、機械加工や組立ての自動化が進むにつれて、バリ取り作業が手作業に占める割合が次第に無視できなくなってきました。また加工部品の品質の向上や自動組立ての採用に伴い、機械加工部品の精密バリ取り作業の必要も大きくなってきました。
電解バリ取り加工は、このような目的に合致するばかりでなく、他の方法では困難な部分のバリを容易に除去することができます。電解バリ取り加工の一例を【図2】に示しました。
【図2】は、中央穴にクロスする細孔の分岐点におけるバリ取りを示しています。電極工具Aは取り付け具を介して中央穴の中に保持され、クロスする細孔に対向する部分以外は絶縁されているので電解除去作業はこの部分だけで行われます。電極工具と加工物は固定されており、電解液は取り付け具から入り、電極の周囲を通り、電解生成物を運んでクロス孔から放出されます。
電解バリ取りは電極工具と冶具、取り付け具などをバリ取り部品の形状の合わせて適当なものにしなければならないので、大量生産される部品のバリ取りに適しています。