化学エッチングや電解エッチングは、電子工業、精密機械工業、印刷工業などのあらゆる分野で基礎的な技術として応用されてきました。なかには他の優れた加工技術の進歩によってその役割を終えたものもありますが、いまなお重要な加工技術であることに変わりはありません。幾つかの例を紹介しましょう。
(1)薄膜のエッチングによる回路形成
コンピュータや通信機器などの電気回路は、プリント基板で構成され、その上にはミクロな構造をもつ集積回路(IC)や抵抗、コンデンサーが搭載されています。集積回路の高密度化に伴って、これら抵抗やコンデンサーも年々小型化が要求されています。抵抗を例にとりますと、これらを小型化するためには、従来のような金属の細線を絶縁物に巻いた巻線型抵抗では限界があります。そこで、絶縁物上に抵抗金属やその合金の薄膜を形成し、その薄膜上に所望の抵抗値となるような回路パターンをエッチングして作成しています。
抵抗としては一般的にはニッケル・クロム合金やタンタル薄膜などが使用されています。回路を形成するエッチング液としては、硝酸・塩酸・水などの混酸が用いられます。
通常これらの薄膜は、スパッタリングなどの蒸着法で成膜されますが、さらにコストを下げるために無電解ニッケルめっきなどが用いられるようになりました。
無電解ニッケルめっきは、Ni-B合金またはNi-P合金がありますが、ニッケルの還元剤として、ホウ水素化ナトリウムを用いためっき液からは硼素Bを含むニッケル合金が、次亜燐酸ナトリウムを用いためっき液からはりんPを含むニッケル合金が得られます。これらのニッケル薄膜は、Ni2P、Ni3P、Ni2B、Ni3Bなどの合金を形成しているので、これらのエッチングには相当反応の強いエッチング液が必要です。エッチングされにくいリンPやボロンBのスマットが残留するからです。一般には硫酸、硝酸、水(1:1:1)のエッチング液を40~50℃に加熱して用います。したがって、非エッチング部を保護するレジストもこれに耐えるものでなくてはなりません。
(2)フォトエッチングによる印刷工業
印刷は、文字、図形、写真などを紙、金属、プラスチックなどの表面にインキ画像として転写する技術で、その際には印刷版が必要であります。
印刷版は、昔から木版、鉛活字、石版、銅版などを経て、今日では写真製販の時代になりました。文字印刷に限れば活字組版などは現在も行われていますが、図形や写真に用いる判面のすべてはフォトエッチング技術によらなければなりません。この方法は、金属板上に写真焼付け法によって耐酸性の画像をつくり、腐食液を用いて図形、写真などを凹面または凸面に腐食して印刷版をつくるものです。凸版印刷の金属材料としては亜鉛やマグネシウム、銅などが使用されます。これらの金属には結晶を小さくして印刷精度を高めるために特殊な金属が添加されています。エッチングの腐食液としては、硝酸、硝酸+塩酸などの水溶液、銅の場合には塩化第二鉄液などが用いられます。