電解加工用の電解液には、次の特性が要求されます。
(1) | 被加工物の表面を不動態化するような不溶性生成物を形成しない。 |
(2) | 液中の陽イオンが電極工具面上に電着しない。 |
(3) | 電導度が高く、粘度が低い。 |
(4) | 良好な加工精度と仕上げ面が得られる。 |
(5) | 腐食性と有毒性がない。 |
(6) | 液の組成が安定であり、安価に入手できる。 |
電解加工用の電解液には、沈殿物を生じるものと、生じないものに分けられます。NaClなどの中性塩の水溶液は、前者に属し、各種の酸やアルカリの溶液は後者に属します。
(1)中性塩溶液
中性塩の水溶液は、一般に酸やアルカリより電導度が低いが、腐食性もまた低いので、一般に用いられています。陽極反応では、金属と陰イオンの化合物が形成され、陰極反応では、水素ガスと水酸イオンが生成されます。これらの生成物は、液中で化合して一般に不溶性の金属の水酸化物を生じます。
この水酸化物は、コロイド状の沈殿として液中に浮遊しますが、その含有率が2wt%(重量パーセント)までは電導度、加工速度、仕上げ面粗さ、加工精度などに大した影響を及ぼしませんが、この値を超えると、液の粘度が急に増加し、液の流れに悪影響を及ぼします。従って、浮遊物の含有率を2%程度以下にする必要があります。
通常、沈殿物の除去には濾過、遠心分離、沈降などの方法が組み合わされて用いられますが、最も安価な電解液でも(たとえばNaCl)それを廃棄したり、新しく更新するよりも、沈殿を除去して清浄化したほうが、一般にはより経済的です。
中性塩電解液として最も広く用いられているのはNaClの水溶液で、鉄系合金、ニッケル-クロム系合金などを中心として、ほとんど大部分の金属材料に使用されています。
この溶液は塩素イオンを含むので、陽極の不動態化を妨害する性質をもち、また、陽イオンがNaイオンでありますから、これが陰極面上に電着することもないので、電解液として優れた特性をもっていますが、若干の腐食性をもつこと、加工精度が悪いという欠点もあります。
NaCl電解液の加工精度が悪いのは、スローイングパワー(throwing power)が大きいからです。スローイングパワーとは、電気めっきの均一電着性のことで、加工間隙が大きくてもよく溶出するということですから、加工精度は悪くなります。
スローイングパワーの小さい電解液としては、NaClO3やNaNO3も用いられています。しかし、これらは、加工精度は良好で、腐食性もありませんが、電流効率はかなり低下します。