現代社会では、自動車や家電、食品容器、医療用具などの生活に不可欠な製品の無数の部品に、プラスチック素材が利用されています。しかし、工業用途で使用されるプラスチックが、化学合成によって人工的に生産が可能になったのはわずか135年ほど前であって、人類の歴史の中ではつい最近になって見出された素材なのです。
初期のプラスチック素材は、天然に存在する有機物でした。代表的なものとしては、ゴムの樹液からつくられる生ゴム、南方の国々に生息するラック虫が分泌する液から作られるシェラックなどが挙げられます。また、「松やに」も天然樹脂の一種と考えてよいでしょう。
プラスチックを人工的に合成ができるようになった最初は、硝化綿(セルロースニトレート)です。別名はセルロイドとして著名です。初期の子供のおもちゃでは、セルロイド製の玩具が大流行した時期がありました。硝化綿は、ドイツのシェーンバインによって1845年に初めて合成されました。
その後、アメリカのジョン・ハイアットが硝化綿に樟脳(しょうのう)を混ぜてセルロイドを発明し、ビリヤードの球として採用され、その後玩具や人形などに世界中で多用されました。
1872年にはドイツのバイエルによって、石炭酸とホルムアルデヒドを混ぜて合成されるフェノール樹脂が発明されました。その後、アメリカのベークランドによって工業化が成功し、ベークライト板や電気絶縁部品として多用されるようになりました。
セルロイドもフェノール樹脂も熱硬化性のプラスチックであったので、射出成形や押し出し成形には不向きでした。
1933年にはドイツでポリ塩化ビニルが発明され、その翌年にはポリメタクリル酸メチルエステル(PMMA、アクリル樹脂)が開発され、熱可塑性プラスチックが工業用途に登場をしました。
1938年にはアメリカのデュポン社のカローザスがポリアミド(ナイロン)を発明するに至り、高強度、耐熱性の良好な熱可塑性プラスチックの登場によって、プラスチックは様々な用途で画期的な特徴を持つ素材として社会に認知されるようになっていきました。
その後、プラスチックは高分子化学の発達によって無数の樹脂が発明されて工業化に成功し、今日に至っています。プラスチック材料の工業化に伴って、成形加工に必要な金型の需要も増大し、今日の金型産業が形成されていくことになりました。プラスチック金型の産業としての歴史は、このように短期間の間に目覚しい発展を遂げているとも言えるでしょう。
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- 参考文献:『プラスチック技術読本』(桜内雄二郎 (株)工業調査会)