[2023/4/7公開]
こんな人におすすめ
・射出成形工場のコストダウンのポイントが知りたい
・コストダウンは何から始めればよいかわからない
・コストダウンで考慮すべきことを知りたい
昨今、物価上昇により射出成形工場の管理費は、増え続けている。
製造コストが上がった分、売値に反映できればよいが、ライバル企業との価格勝負や、値上げに対する悪いイメージがあるため、その上昇分を反映できず、利益が減ってしまう状況である。
射出成形工場におけるコストダウンについて、実例を交えて解説していく。
管理費の洗い出し
事業に必要なものは、人・もの・金といわれる。
これらは、有限であるため、無計画にものづくりをしていては、利益は残らない。
射出成形工場において、ものづくりをするのに、何にいくらかかっているのかを把握することがポイントである。
最少の労力で最大の利益をだすには、明確な意思の元、生産活動を心掛けるべきだ。
射出成形工場の管理費
・人件費
・原料費
・水道光熱費
・設備の減価償却費
・通信費
・運搬費
・修繕費や備品費 など
月ごとの管理費を視野広く洗い出していく。
生産の負荷により管理費の増大はあるにせよ、まずは現状を把握して、ムダのあぶり出しから始めるとよい。
射出成形現場の固定費を削減
洗い出した製造コストの内、毎月固定でかかるコストは、一番初めにコストダウンしていくべきである。
射出成形現場の固定でかかる管理費のコストダウン事例は以下のとおりである。
契約電力
契約容量の最適化はもちろんである。さらに、電気会社、契約期間、契約内容によって毎月の支払額が大きく変わるので、最優先で取り組む事例である。
工場内の電力消費
不要な電力消費は無駄である。
・照明の間引き、自動消灯、点灯時間の管理(日中点灯しない)
・エアー配管やエアーホースからのエアー漏れは、すぐに直す。工場が稼働している時(コンプレッサーがON)常に漏れるので、固定のムダといっても良い。見つけたらすぐに対処すべきである。
設備や車両の点検整備費用
フォークリフト、天井クレーン、電子計量器、ノギスの校正など、定期的に発生する点検・校正費用は、一度お願いした外部機関にそのまま継続してもらうことが多いため、割高なことがある。
点検項目は決まっているので、同業他社の費用を検討することで大きくコストダウンできることがある。
省エネ(低コスト)製造のススメ
射出成形工場における、エネルギー効率の良いものづくりの基本を紹介していく。
最少の労力で、最大の利益を上げることに注目してほしい。
省エネの意識を心掛けることで、今までのムダを改善できる。
製造工程 1サイクルの最適化
射出成形のものづくりは、充填→冷却→取り出しの1サイクルを繰り返して稼働している。
1サイクルが29秒の成形品は、1日に3,000回ほど繰り返し動作を行うことになる。
この1サイクルを最適化することが重要である。
無駄の多い工程の例は以下のとおりである。
・射出成形機:冷却時間を大きく余らす高回転な計量
・取り出し機:1サイクルに間に合う以上の高速動作
・ローダー:吸い上げ完了以上の空吸い動作
・コンベア:必要搬送量以上の高速動作
これらに共通するのは、必要以上の負荷がかかっていることである。
1サイクルが最速であることは絶対であるが、1サイクルに影響のない動作まで最速にする必要はない。
射出成形機 加熱筒保温効率の最適化
射出成形機やその他の周辺機器は、熱源や動力を使用する大きな電力消費設備である。
射出成形機の加熱筒のヒーターは常時高温に設定しているため、大きな電力を消費する。
ヒーターの周りに保温ジャケットを巻くことが非常に効果的である。
また、ヒーターが断熱されるので、成形室の温度上昇を抑える効果もある。
特に、450tを超える大型成形機は省エネ効果が大きい。
手待ち時間の削減
人件費は1番大きな管理費である。
製造工程で機械につく外観検査(梱包)員の手待ち時間は他の作業をさせる。
【手待ち時間におすすめの作業】
・1台の成形機だけでなく、2台の成形機を担当させる
・別成形品のゲートカット作業、計量作業
・完成品の運搬作業
優先順序を意識する
コストダウンの改善活動をするうえで、優先順序の見極めが重要である。
改善活動を進めるには労力がかかるため、コストダウン額が大きく、かつ改善が容易な課題から取り組んでいく。
コストダウン改善活動の悪い例は以下のとおりである。
・改善効果額が低い。
・難しい改善でなかなか結果が出ない。
・優先度が低い。
・外因の影響を受けやすい改善(たらればを想定した改善は避ける)
・部門良しの全体悪になっている。
改善することが、目的になってしまうことがある。
あくまでコストダウンが目的であるので、「なぜ改善が必要か?」を意識して改善に当たるべきである。
廃棄ロスを最少にする
原料廃棄ロスの削減は、コストダウン効果が大きく、再利用ができれば利益に直接還元される。
・成形不良品やランナーは都度粉砕リターンする。
・パージ量が最少になるように、適正なパージ作業をする。
・高額な原料はパージ剤を使用し、効率的に樹脂替えをする。
・樹脂ごとに分けて処分する。
省スペース化
中長期的な視点で見るならば、スペースの有効活用を考えねばならない。
試作材や不要原料、預かっている金型、受注頻度の低い在庫品など、動かない資産には保管コストがかかっていることを忘れてはならない。
すぐにコストダウンに繋がるわけではないが、整理整頓することで、作業スペース、保管スペースが生まれ、生産活動が効率的に行えるようになる。
コストダウンと生産効率のバランス
コストダウンを優先するあまり、生産効率が下がってしまうことがある。
・機械、装置の消耗品在庫は、必要である。1つマグネットリレーやヒーターがないだけで生産ができなくなってしまう。
・ものづくりにおいて繁忙期があれば閑散期もあるので、完全受注生産では、射出成形は立ち行かない。
1つの成形機で複数の成形品を成形するため、数か月分の見込み生産をして余裕をつくるべきである。
・人件費を削減しすぎると、成形機の稼働時間が減ってしまう。
段取りする技術者、検査や梱包担当者、品質の管理者、金型メンテナンス担当者など、最少人数でものづくりをすすめるべきではあるが、人手不足では、受注を完納できなくなる。
また、どこの企業も人手不足なため、求人をしてもすぐに集まらないことも大きなリスクである。
コストダウンと設備投資
コストダウンを進めながら、低コストの仕組み作りが重要である。
協働ロボットを活用したり、生産管理を一元管理できるソフトを導入するなど、次世代のものづくりへの設備投資が急務である。
どの企業も導入しなくてはいけない危機感はあるものの、「何から始めればよいかがわからない」ことがハードルとなり、導入に至っていない。
デジタル化推進サポートコンサルタントや、ロボットメーカーや装置メーカーと一緒に進めていくことがおすすめである。
まとめ
射出成形におけるコストダウンは、どの企業も積極的に取り組んでいることと思う。
時代や情勢に影響を受けにくく、自社で改善できることから、継続していくことがポイントである。
また、現状のコストを削減するだけでなく、中長期的な視野で、低コスト生産の仕組み作りにも取り組んでいくべきである。